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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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「お帰りなさいませ。イオリ様」


 エルブジはいつも通りの柔らかい、丁寧なお出迎えをしてくれた。

 俺の手にした時間保管箱を見て、にこりと微笑む。


「どうやら首尾良くいかれたようですね」

「ああ、なんとかな」


 本当は『なんとか』どころか、ドタバタの連続だったのだが…


 帰路についてもそうだった。

 例の岬近くのクダコーレは、まだ予定航路に居座っていた。少しずつ移動しているものの、迂回せずに済むようになるには、マイドの計算では後二日近く足止めを食らう事になる。ジェーンを呼び戻す事も考えたが、ご年配をこき使うようで申し訳ない。

 結局、俺とパドーレだけ先にノーマに転移してもらって、お城に帰ってきた。


 という事で残りのメンバーは今だ洋上にいるわけだが、紗友里と朽木は、

「姐さん、これでゆっくりと釣りができるってもんですね」

「おおよ!なぁアル、いっそのこと一週間くらいかけてゆっくり帰ろう!」

と、逆にテンションを上げていた。


 …倒産しなけりゃいいけどな、クドウ不動産株式会社。


 厨房に行くと、思った通りブルート達が興味津々でパドーレを囲んだ。


「これがパドーレか。初めて見た」

「凄い光沢ね。お化粧できそう」

 リドはパドーレに映った顔で変顔を作って見せた。


「で、どんな料理が合う魚なんだ?」

 

 流石ブルート、料理人らしいもっともな質問だ。


「私もそれ気になっていたんですが、こらいどさーごん、でしたっけ?」

「いや、ノーマ…ホワイトサーモンな」


 紗友里の味見によると、パドーレはほぼほぼ、キングサーモンの中でも希少種である『ホワイト』の味らしい。その名の通り、通常だと身が紅色であるべきキングサーモンの中でごくまれに(一説によると千匹に一匹だとか)獲れる白身のサーモンで、上品な脂としっとりとした食感が特徴だ。

 当然だが(希少というキーワードと相まって)超が付く高級食材だ。


 正直なところ、俺は修業時代に一度口にしたことがあるだけだった。


 聞けば、紗友里も過去に一度口にしただけだと言う。


『いや、間違いないぞ、イオリ。私は一度口にしたものの味は忘れないからな』

そうあっさりと言ってくれていたが、それとんでもないチートスキルだからな。


 まぁ、都市を一つ潰しかねない味というのだから、これくらいでないと、というところか…


「めちゃくちゃ美味しかったですよ!こう、トロッと、ブワッと、ジュワっと!」


 説明しあぐねている俺に変わって、ノーマが皆に説明しているが、聞いてる側は全員優しい微笑みを浮かべているだけで、頷いてはいなかった。


「どんな料理を出す気なの?」

 リドが直球勝負にきた。


「うーん…」

「え?またそんな感じ?」

「…うーん」


 実は今回の食事会の状況から、俺は大方の方向性というか、作る料理のジャンルは決めていた。

 だが、その料理と手に入れた食材、パドーレの整合性というか、マッチングでしっくりこないでいた。


 なんだろう、なにか両者を繋ぐというか、ぴったりはめ込む為の、『これだ!』という素材がまだ思い浮かんでこないんだよな…


「まぁ、イオリはそんな感じだからな。食事会迄あと四日もあるんだ。前回もそうだが、きっと俺達を驚かせる料理を作ってくれるさ」

 

 ブルートが無駄にハードルを上げてくれている。


「とりあえずイオリさん、何か用意しとくものはありますか?特別な調理道具とか必要なら前もって…」

 

 オデット、君はとてもいい人だ。


「そうだ。それなんだけど。鍋が一つ欲しいんだけどな」

「どんな鍋です?」

「えーと、このくらいの大きさで、表面がこう…」


 俺は出来る限りの言葉に手振りに、あと実際に絵を書いて、欲しい鍋の情報を伝えた。


「いや、そういうの、ここにはないですね」


 だろうな。前回調理した時には見当たらなかった。


「どうしてもその鍋じゃないとダメなの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが…」

 

 今回の料理を思い描くと、どうしてもその鍋のビジョンが強く浮かんでくるのだ。

 中身の方はまだモザイクがかかったままだが…


「でも、どっかで見たような…」


 おお、オデット、やはり君はいい人だ。


「それって、あれじゃない?」


 おお、リド、やはり君は頼りになる。


「ラシームの店で似たようなの見た事があるわ」

「ああ、そうだ。前に買い出しに行った時、確かに見ましたね」

「ラシームの店?」

「街にある金物屋よ。ここにある調理道具とか、結構そこで買ってるの」


 おお!金物屋。料理人が好きな店トップスリーの一つじゃないか。


 俺が目を輝かせていると、ノーマがいきなり俺の手を両手でつかんできた。


 見上げるその目は、俺以上に輝いていた。


「イオリ様、是非行きましょう!お買い物!」

 

 ニコニコな顔はそれ全体でキラキラ状態だった。


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