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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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 ニンニクをたっぷりみじん切りにする。


 以前セザンがくれた野菜の中から、あてずっぽうでいけそうな野菜を選んで、それらも同じくみじん切りにしていく。

 野菜には間違いないので、多分、みじん切りにして炒めればその効果は似たようなものになるはず、と考えての調理だ。

 

 なんとなくその辺りには少しは耐性がついてきたような気がする。

 

 『料理人として面白くない』というアルベージュの言葉に反発心を抱いているのかもしれない。

 

 どんな素材だろうとも、挑戦してやろうじゃないか!

 

 ただ、その結果が自分ではまるで分からない料理人なんですけどね…


「イオリ様、大丈夫ですか?」


 ひとり葛藤が顔に出ていたのか、ノーマが本気の心配顔を浮かべていた。


「いや、大丈夫だ。それより見つかったか?」

「これですか?こちらの字は分からないので、細っこくて赤くてヒヨヒヨした毛みたいなのがいっぱい入ってる小瓶…言われた姿の物を探してきたんですけど」

「正解!さすがノーマ!これこれ!ありがとう」


 ノーマから瓶を受け取る。店の棚からとってきてもらったのだ。


「これ、なんなんですか?初めて見たんですけど」

「ん?ああ、花のめしべを乾燥させたものだ。一輪からちょっとしか採れないからめちゃくちゃ高価な香辛料なんだぜ」

「へー!お料理っていろんな物を使うんですね。誰が考えたんでしょうね?」


 それはねノーマ、料理人のあくなき挑戦の賜物だ…


 俺は帰り際にアルページュが持たせてくれた木箱を開けた。


「うわ、凄!」

 ノーマの目が輝いた。

 

 箱の中には魚介が目いっぱい詰めてある。

 

 パリムスメメカの切り身にプルルの貝柱、他にはピンク色の殻付き貝に銀色のエビ…

 

 形だけならムール貝にスカンピなんだけどな…


『お土産よお。よかったら食べてね』

 アルページュが厳選した素材だろうから、きっと美味しい素材には違いない。

 あのお花畑の住人みたいなお嬢さんも、異世界の食材に果敢に挑戦して、今のスキルを獲得したのだろう。


 負けてらんないな。


 木箱には特に保冷剤的な物は見当たらない。もしやと思って蓋を見ると、裏側に例の魔法陣が書いてあった。

 時間保管箱だ。

 フリオ達が働いていた魚市場にも、氷の類は見当たらなかった。これはかなり一般的な技術なのだろう。


「何を作るんですか?」

「出来てからのお楽しみだ」

「えーずるい!」


 ああ、この時がずっと続けばいいのに…


 魚介を深めの鍋に入れて水で煮込んでいく。

 素材が固くならないように、軽めに茹でるのが大切だ。

 

 驚いたことに、あの銀のスカンピは茹でると無事見事な紅色に変化した。


 わかるか!そんなもん…


 茹で上がったらザルにあげて具と煮汁とに分ける。

 大事な大事な煮汁だ。


 平底の浅いフライパンでみじん切りにした野菜とニンニクを、たっぷりめのオリーブオイルで炒めて、予め皮を剥いて潰しておいたテペル(あの黒皮のトマト)を合わせる。

 

 水分が飛んできたら、さっきの煮汁を入れて、すかさずクルクルを入れて混ぜ合わせたら、

「こいつの出番だ」

「さっきの!えーと、サフラン、でしたっけ」


 サフランを一つまみと、海水塩を入れたら蓋をして十分位炊く。


「ああーなんか海の香り!」

 

 いい表現だ!ノーマさん。

 

 米が炊けてきたら魚介類を入れて、再び蓋をして八分煮る。


「わ、私、テーブルの準備しておきますね!」


 待ちきれないとはっきり言ったらいいのに。


 キッチンタイマーが鳴った。


 蓋をとって、最後は強火でおこげを作る。


 本当はイタリアンパセリが欲しい所だが、今日は我慢してエキストラバージンオイルを回しかけて仕上げる。


「出来たぞ!パエリア・ベルカント風だ」

「いただきます!」

 かぶせ気味に来た!


 ノーマはもう中央に置いたフライパンから直接いった。

 スプーンの上にはスカンピが一匹丸ごとのっているが、竜にとってそれは妨げにならなかった。


「きゅううううううううううう!!!!」


 ああ、人は(竜も)嬉しいと正しい言葉を発せなくなるのか…


 俺の髪がバサバサとたなびいた。

 ああ、これは、今回はまるで海風のような…


 ノーマの感情は爽やかに吹き付けてきた。


 だがその風は、直ぐに収まった。


「…お魚も貝も、全部すごく、美味しいです」


 ノーマは静かにそれだけ言うと、後は無言でパエリアを食べ続けた。


 俺も、パエリアを食べた。無言で…


 食べ終わるまで、二人とも無言で…


 分かっています。

 二人とも、本来考えなければならないことから目を背けて、無理に熱血ぶったり、はしゃいだりしていたのです。

 これを食べ終わったら、ちゃんと勇気を出して向かい合います…

 

 ノーマがスプーンを、ゆっくりと置いた。

 

 ピンク色の貝殻が、揺れて倒れて、小さな音を立てた。


「…あの、ノーマ…」

「…あの、イオリ様…」

 二人同時に顔を上げた。


 ノーマの目が真剣に俺の目を見ている。

 俺は小さく頷いた。

 ノーマがすうと息を吸った。

 途端に顔が歪んだ。

 俺も釣られて、顔を歪める。


「紗友里、どうしよう?」

「お姉さま、どうしましょうか?」

 二人同時に鳴き声を上げた。


 昼間の紗友里と朽木の様子が頭に甦ってきた。

『久々に腕が鳴りますねぇ!姐さん!』

『おいおい朽木、社長と呼べと言ってるだろう。それよりPEの2号、1000m巻きがあっただろう?』

『すみません社長。それならそのボックスの中に。だとしたらリールはこれですかねぇ?』

『それだとキャパが少し不安だなぁ。竿はこれでいいとして、いや楽しみだな!おい』

 生まれて初めて目の当たりにしたはしゃぐ紗友里の姿に、俺は何も言えず冷汗を垂らしながらただ立ち尽くすだけだった。


 その夜、俺とノーマは夜通しミーティングを行った。


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