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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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18

「ちょっと!何やってるんですか!」

「おい細包丁!そいつは聞き捨てならねえな!」


 ノーマとフリオが同時に激高した。


 席を立ったフリオはアルページュに詰め寄り、席を立ったノーマは椅子ごと俺を持ち上げてアルページュから引きはがした。


「まぁまぁ二人とも落ち着きなさい。アルや、お前も滅多な事を言うもんじゃない」


 ガガンがその場を収めようとしたが、そんなことで二人は収まらなかった。


「どういうつもりだ!」

「どういうつもりですか!」


 二人同時に迫られたアルページュは、こともあろうに、

「なにが?」

と小首を傾げて、ついでに人差し指を唇に当てがいながら不思議そうな表情を返した。

 

 火に油を注ぐ…なるほどこれがその最たる事例か…勉強になるな。

 

 二人の頭から湯気が立ちあがった。

 いやノーマに至ってはもはや噴出している。


「だってえ…」

 そんな二人に構わず、アルページュは真っすぐな視線を俺に向けてきた。


「どうしても食べさせてあげたい人がいるのでしょう?だったら獲っちゃ駄目って言われた位で直ぐに諦めちゃうのは、料理人としてはつまらないわ」


 この言葉に、ノーマの頭から湯気が消し飛んだ。

 そしてその言葉は、純粋な視線と共に、俺の胸を貫いた。


「…」


 ぐうの音も出ない。

 

 確かに無茶な言い分だが、俺とアルページュ、どちらが料理人として気持ちがまっすぐか、そういう話だ。


「たが細包丁よ。街で決めた決まり事なんだ!この街の秩序を守る為にだな…」


 フリオは引き下がらなかった。これも当然だ。街を支える産業の有力者、それはつまり街を守るべき責任がある立場だという事だ。


「あらぁ?」


 だが責任を果たそうとする海の男の気概は、お花畑の前では無力のようだ。


「なら、街の決まりとは関係のない所で獲ればいいってことじゃないの?」

「は?え?あ…」


 フリオの頭から湯気が消えた。


「そもそも、パドーレは今この海域にはいなんでしょう?だったら、今いるところで捕まえちゃえば、問題ないんじゃないのかしら」


 なるほど…そうか…

 パドーレは産卵期になると群れでベルカントの海域へ回遊してくる。それは半年先だ。

 じゃあ今現在、どこにいるのか?


「それがそう簡単な話ではないんじゃ」

 ガガンが口を開いた。


「なぜパドーレ漁がこの周辺で産卵期にだけされていたか。それはな、その時しか獲ることが出来んからなんじゃ」

「それは、物理的な理由という事ですか?」


 俺の質問に、ガガンは無言で頷いた。


「ガガンの言う通りだ。いまあいつらがいるのはここからかなり北の冷水域だ。その海の、とんでもなく深い海底の層を泳ぎ回ってるのさ」


 フリオが肩をすくめた。


「あら、いる場所は分かっているという事ね」

「だから、手も足も出ないんだよ。そこは深いだけじゃなく、底潮が早くて複雑なんだ。とてもじゃないが、俺達の道具が届くような場所じゃねえ。だから浅場に来る時期に…」

「だからぁ」


 アルページュはフリオの言葉を遮って、そして細い笑みを浮かべた。


「貴方達の道具じゃあ獲れない、というだけでしょう?」

「!」


 やっとアルページュの意図が読めた。


「そう言うなら細包丁、あんたなんか策があるのか?」

「さぁ?私はあまり詳しくはないんだけど、なんとかなるんじゃなくて?」


 後半は俺に向けた言葉だ。


 確かになんとかなる、かもしれない。


「だが細包丁、俺達漁師の船は使えないぞ。もちろんガガン卿のもだ。どこの海域にせよ、パドーレを狙ってという事になりゃ、街の漁船を動かすのはさすがに無理だぜ」

「それは大丈夫。私の船を貸してあげる」

「あんた、船まで持ってるのか?」

「まあね。素敵なお船よ」


 それは朗報だが、それにしてもやけに協力的だな…


「やけにお優しいですけど、いったい何が目的なんですか?」


 同じ疑問をノーマも感じたようだ。


「ふふふん」


 アルページュはご機嫌な様子で立ちあがると、ふらりふらりと歩み始めた。


「まずは、首尾よくパドーレが何匹か獲れたなら、私にも分けて頂戴。そんなに美味しい魚なら一度料理してみたいわ」

 

 なるほど、それは想定内だ。


「それと…あとひとつ…全部うまくいったらその時はぁ…」

 

 アルページュはノーマの背後に立つと、その白く細い指先で、ノーマの首筋をするりと撫でた。


「この娘を、貸して頂戴」


「ぎゅげ」


 ノーマの口から聞き慣れない言語が漏れ、その首筋に見る間に鳥肌が立った。


 あ、竜肌か?…


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