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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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16

 迂闊だった。

 パドーレの話に気を囚われて、こんな簡単な事に気付かないとは…


「うー…」


 ノーマのほっぺが何も食べてないのにめちゃくちゃ膨れ上がっている。


 駄目ですよノーマ。食べ物は睨みつける物じゃありません。


「どうしたのじゃ?ノーマや?」


 ノーマの豹変に気付いて、ガガンが声をかけた。

 呑気この上ない表情で。


 よく考えれば分かる事だった。そもそもこの街で異世界人をコックとして雇えるような人物など、この呑気なおじいちゃんしかいないじゃないか。


「うー」

 もう一度ノーマが唸った。


 どうする?ノーマ?


「おおお!こいつは美味い!」

 フリオも唸った。

 

 そのフリオを一回睨みつけてから、ノーマはナイフを手に取った。下唇を噛みしめて…


 パリムスメメカの身はとても柔らかく、ナイフを当てただけで皮まで抵抗なくスッと切れた。

 

 …見事な調理だ。

 

 フォークでそれを口に運ぶ…までノーマは実に十秒以上を要した。


「うー」

 もうノーマは唸ってしかいない。


 そして目を瞑ると、ぱくっと、一瞬で食べた。

 まるでニンジン嫌いの子供が勇気を出してそれを口に入れる時のようなしぐさだ。


「う…………」


 ナイフとフォークを持った両手をテーブルに押し付ける様にして、ノーマが俯いた。

 その肩が小刻みに震えている。


 いまや全員がその様子に注目していた。

 が、今ノーマが何と戦っているかを理解しているのは俺だけだろう。


 沈黙の時間…ノーマの震えでテーブル全体がカタカタと振動する音だけが響いている時間が、少しの間続いた。


 ついに俺が居たたまれなくなった。


「ノーマ、大丈夫か?」

「…もう…○◇…」

 小さくて聞き取れない。


 テーブルの振動が止まった。

 静寂が時を止めた。

 ノーマの動きも止まっている。微動だにしない。


「ノーマ?どうした?」

 そう聞いた瞬間、テーブルに一滴の雫が落ちた。


 …涙?


 そう気づいた瞬間、ノーマがガバ!と顔を上げた。


「もう無理―――――――!!!!!」

 

 半泣きで叫んだノーマから、天井まで届く程の竜巻が飛び出した。

 

 これは…感情の竜巻か?


「うわ!」

 まず一番近くにいた俺がその直撃を受けた。

 心全体をグルングルンと回されて、なんか無性に昂って身体全体が浮かび上がったかのような高揚感でいっぱいになる。

「なんじゃあ!」

 次に竜巻はフリオを襲い、

「おおおおおおお」

 続いてガガンを直立不動にさせた。


「うわ!」

「なんじゃあ」

「おおおおおお」


「う!」

「なんじゃ」

「おおお」

 

 竜巻はテーブルの周りを二周しながら少しずつその勢力を弱めていき、最後にノーマの元に帰りスン、と消えた。


「うううう…美味しい…」


 ノーマさん、悔しいのは分かったから、泣きながら料理を食べるのはお止めなさい。


「よかったわ」


 透き通った声が流れた。


 振り返ると入り口が少しだけ空いて、そこから透き通るような顔が半分だけ覗き込んでいた。

 頬に落ちた金髪が輝いている。


「お気に召して頂けたようね」


 アルページュは、にっこりと笑った。


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