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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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8

「別に会いたくて来たわけじゃなくて…」


 フランチェスカの言葉に対するノーマの返事がこうだった。


「へーそう?私も別に会いたかったわけじゃないけど」


 ノーマの言葉に対するフランチェスカの返事がこうだ。


 売り言葉に買い言葉のお手本みたいなやりとりだ。


「まあまあ二人とも、お止めなさい。イオリ様の前で。マイドだって呆れてますよ」

「あ、いえ、そんな、あの」


 いきなり振られてマイドが焦っている。

 確かに飛び火だな。マイド、ドンマイ。


 ノーマはふくれてそっぽを向いている。


 正直、こんなノーマは初めて見た。ちょっと新鮮だ。


「だいたい、今私食事中だったんだけど」


 お?


「それは申し訳ございませんでした」


 一応誤ってはみたが、いや、これはチャンスだ。


 俺はテーブルの料理に目をやった。

 そして、目を疑った。


 テーブルの上には、コップと皿が一枚。


 質素な食事だ。いや、質素なんてもんじゃない。


 コップの中には水。氷も入っていない。

 そして皿の上には、十センチくらいの不可解な物体が乗っていた。茶色くて四角い棒、一瞬木片かとも思ったそれは、乾燥した表面がほんのり光っている。

 

 見ているうちに、料理人としての勘が掴んだ。


 あれは保存食的な、そういう何かだ。


「まったく。こっちは演奏会で疲れてるのに…」


 ぶつぶつ言いながらフランチェスカはその棒を掴み上げると一口齧った。


 サクリ、と棒は齧り取られて、フランチェスカの口がそれをサクサクと噛んだ。

 そしてコップの水を一口飲む。


 見た目通り、あの棒は口の水分を持っていくタイプなのだろう。


 そのサイクルを三回繰り返して、フランチェスカは今日の夕食を終えた。


「ふー」


 君の叔父は食事の後にそんなやっつけた感満載の『ふー』は言わないぞ。


 無言で振り返ると、ノーマは困った顔で頷いた。


 いますぐあの棒について根掘り葉掘り聞きたかったが、食事を済ませたフランチェスカがそれを許さなかった。


「ねぇノーマ、貴方が今日来たのは私にその男を紹介する為なんでしょう?」

「そうよ」

「ふーん…」


 フランチェスカは俺を値踏みするように見た。


 その視線からは、とても良い値が付くとは思えなかった。


「ふん!」


 ほらね…


「ノーマ、あなた私の誘いを断った時に、他に大切な仕事があるとか言ってたけど、それがこれなの?」


 ん?誘い?


「何が言いたいの?」


「歌姫として二人で帝国を盛り上げるのより、こんなさえない男と一緒にすることの方が大事なのかってこと?」


 あ、繋がった。ノーマがずっと気まずそうにしていた理由。フランチェスカのノーマに対する態度。なるほど、繋がったぞ。


「え?そんな素敵な計画があったんですか?いやノーマさんならきっと人気出ますよ~」


 黙れ、親衛隊長。


「いやほんとに…ひ…」


 マイドが続けて何か言い出そうとしたが、それは熱気に阻止された。


 ノーマが発する熱気に…


「フランチェスカ。さえない男というのは、まさかイオリ様の事?」


 地の底から響いてくるような声、全身から発する熱気。

 ヤバい、竜が激怒している。


「やめなさい!」

 ピシャリ!とお母さんの一声がその場を打った。


 ノーマと、同時にフランチェスカも、何故かマイドも、固まった。


「フラン、もうそれは終わった話でしょう。それにイオリ様は、薪会の料理番候補でいらっしゃるのよ。失礼な事を言わないの!」


 『め!』と言って欲しかった。


「本当に娘がすみません。初対面の方に失礼な事を」

「いえいえそんな、頭を上げてください。俺は別に気にしてませんから…」


 そんな近所付き合いのワンシーンみたいなやり取りを不機嫌そうに見ていたフランチェスカが、キッとノーマを見据えた。


「そう?そんなにそいつに入れあげてるわけ」

「なにが?悪い?」

「いいわ、ノーマ。なら勝負しましょ!」

「は?勝負?」

「そいつ、料理人なんでしょう?」

「そうよ!イオリ様はスッゴイ料理人なんだから!」

 

 いや、またそんなお手本会話を…


「じゃあこうしましょう」


 フランチェスカは、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「今度のダカン叔父様との会合で、私を唸らせる料理を出したら、貴方達の事は認めてあげる。私も薪会の料理番としてその男を推薦してあげるわ。そのかわり…」

 

 …読めてきたぞ。


「私を失望させるような事があったら、ノーマにはお城の仕事を辞めて、私と一緒に歌姫をやってもらうわ!」


 …ほらね。


「いやいやいや、それはいくら何でも…」


 大人として止めに入ろうとした俺の背中を、ノーマが掴んで引き留めた。どころか、そのままノーマは俺をブン、と振りまわして、自分の後ろに追いやった。


「面白いじゃない…」


 どうやら竜の怒りは収まっていなかったご様子だ。


「その勝負、受けて立つわ!」


「あらあらあら」

 お母さん、笑ってないで止めて下さい…


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