6
そこに立っていたのは、キラキラと光るオレンジ色のドレスを着た、フランチェスカだった。
あのポスターのまま、いやあれよりもずっと可愛い。
左手をまっすぐに突き上げ、右手に握ったマイク(形は魔法少女のスティック的な物だが)を口の前に構えたポーズのまま、微動だにしない。
それは、ポスターに載っていたあのポーズのままだ。
マイド初め親衛隊員達が一斉に同じポーズをとり、同じように動きを止めた。
なるほど、それがお約束のポーズのようだ。
そのまま静寂が続き、そろそろしびれが切れそうな、というタイミングで、フランチェスカがかっと目を見開いた。
同時に金魚達がかっと口を開いた。
静寂が破られ音楽が飛び出してきた!
「みんなぁ!いっきまっすよー!!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
劇場全体が揺れる程の返信が観客席から巻き起こる。
「まずはこの曲!帝国ビロート娘エエエエエエエエ!!」
金魚が大きく口を開け、大音量で声が弾けた。
劇場の震度が倍増した。
正直耳を塞ぎたかったが、さすがにこの空気ではその勇気が出なかった。
だが横を見ると、ノーマはちょっと迷惑そうに顔を歪めて耳を塞いでいた。
さすがの強心臓ですね、ノーマ様。
イントロが終わってフランチェスカが歌い始めると、観客の熱気は更に膨れ上がった。
「今の私は♪心の王冠を♪隠せないけど♪」
「うわ…」
その歌声に、俺は素直に驚いた。
数万の歓声の中でも、フランチェスカの歌声は少しも負けることなく、直接体に響くように飛び込んできた。
素人の俺でも分かる。
それは魔法のマイクや怪しい金魚像の力ではない。
フランチェスカの声の力だ。
…これが、歌姫の力か。
帝国中が熱狂しているというのが納得できた。
さらにフランチェスカは舞台の端から端まで、所狭しと踊りながら歌っている。
その踊りは力強くもあり、華麗でもあり、ひらひらと舞うドレスが放つ輝きは、観客をさらに魅了していく。
…これが、帝国のアイドルか。
それから劇場中をフランチェスカの渦が激動し続けた。
「オーオーフラン!ラブリーチェスカ!帝国ウタヒメマジ最強!」
マイド達は声を枯らしながらコールを続け、汗と涙を吹き飛ばしながら舞い続けた。
死ぬなよ、マイド…
最初はそんな事を思いながら冷静でいた俺も、2曲目(ダダダダ大好き魔法のリンク)、3曲目(セルパの背中で捕まえて)と曲を重ねるにつれて、フランチェスカのパフォーマンスに感化されてしまったのか、いつの間にか拳を振り上げながらノリノリで体を動かしていた。
つまり、夢中になっていたのだ。
恐るべし、歌姫の魔法…
だが終盤になって、ふいに耳元に突き付けられた言葉に、俺は冷静さを取り戻した。
「とても楽しそうですね」
ノーマの声は、とてもではないが楽しそうに聞いてくる時のトーンではなかった。
逆に、唾を飲み混むほどの、そういう一言だった。
恐る恐る横を見ると、ノーマの視線はフランチェスカに向いている。
その目は、とてつもなく、冷ややかだ。
そしてほっぺが、とてつもなく、ぷっくりと膨れている。
あれ?も、もしかして、なんかキレてます?ノーマさん?
俺はきっかり十秒間悩んだ。そして、
「ごめんなさい。はしゃぎ過ぎました」
素直に謝ることにした。
「別に。可愛いですもんね、フラン」
いや、ノーマのその態度のが可愛い。
「ふはは」
思わず笑ってしまった。
「なんですか?」
またノーマのほっぺがプクッた。今回は前回より規模が小さい。
「でも、本当にすごいな」
「そうですね。すごいですね。フラン…」
そう言うノーマの顔は、どこか寂し気に見えた。
「みんな今日はありがとう!!!!!!!!」
フランチェスカは最後の曲を歌い終え、舞台を横切りながら観客に手を振っていた。
そして最後に舞台の真ん中で、大きく頭を下げた。
「最高だったよ~!!!!」
「帰らないで~!!!!!!」
「フランチェスカ様あああああああああ!!!!」
観客達の雄叫びを一身に受けながら、フランチェスカはゆっくりと頭を上げた。
その視線をまっすぐに、俺達に向けながら。
その目以外では、笑顔を作りながら。
あ、完全に気付かれてたな、これ…




