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低能な料理番  作者: ミツル
第三章 帝国のアイドル

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 そこに立っていたのは、キラキラと光るオレンジ色のドレスを着た、フランチェスカだった。


 あのポスターのまま、いやあれよりもずっと可愛い。


 左手をまっすぐに突き上げ、右手に握ったマイク(形は魔法少女のスティック的な物だが)を口の前に構えたポーズのまま、微動だにしない。

 それは、ポスターに載っていたあのポーズのままだ。

 

 マイド初め親衛隊員達が一斉に同じポーズをとり、同じように動きを止めた。


 なるほど、それがお約束のポーズのようだ。


 そのまま静寂が続き、そろそろしびれが切れそうな、というタイミングで、フランチェスカがかっと目を見開いた。


 同時に金魚達がかっと口を開いた。


 静寂が破られ音楽が飛び出してきた!


「みんなぁ!いっきまっすよー!!」


「うおおおおおおおおおおおお!」


 劇場全体が揺れる程の返信が観客席から巻き起こる。


「まずはこの曲!帝国ビロート娘エエエエエエエエ!!」


 金魚が大きく口を開け、大音量で声が弾けた。


 劇場の震度が倍増した。


 正直耳を塞ぎたかったが、さすがにこの空気ではその勇気が出なかった。


 だが横を見ると、ノーマはちょっと迷惑そうに顔を歪めて耳を塞いでいた。


 さすがの強心臓ですね、ノーマ様。


 イントロが終わってフランチェスカが歌い始めると、観客の熱気は更に膨れ上がった。


「今の私は♪心の王冠を♪隠せないけど♪」

「うわ…」

 

 その歌声に、俺は素直に驚いた。


 数万の歓声の中でも、フランチェスカの歌声は少しも負けることなく、直接体に響くように飛び込んできた。


 素人の俺でも分かる。


 それは魔法のマイクや怪しい金魚像の力ではない。


 フランチェスカの声の力だ。


 …これが、歌姫の力か。


 帝国中が熱狂しているというのが納得できた。


 さらにフランチェスカは舞台の端から端まで、所狭しと踊りながら歌っている。


 その踊りは力強くもあり、華麗でもあり、ひらひらと舞うドレスが放つ輝きは、観客をさらに魅了していく。


 …これが、帝国のアイドルか。


 それから劇場中をフランチェスカの渦が激動し続けた。


「オーオーフラン!ラブリーチェスカ!帝国ウタヒメマジ最強!」

 

 マイド達は声を枯らしながらコールを続け、汗と涙を吹き飛ばしながら舞い続けた。


 死ぬなよ、マイド…


 最初はそんな事を思いながら冷静でいた俺も、2曲目(ダダダダ大好き魔法のリンク)、3曲目(セルパの背中で捕まえて)と曲を重ねるにつれて、フランチェスカのパフォーマンスに感化されてしまったのか、いつの間にか拳を振り上げながらノリノリで体を動かしていた。


 つまり、夢中になっていたのだ。

 

 恐るべし、歌姫の魔法…


 だが終盤になって、ふいに耳元に突き付けられた言葉に、俺は冷静さを取り戻した。


「とても楽しそうですね」


 ノーマの声は、とてもではないが楽しそうに聞いてくる時のトーンではなかった。


 逆に、唾を飲み混むほどの、そういう一言だった。


 恐る恐る横を見ると、ノーマの視線はフランチェスカに向いている。


 その目は、とてつもなく、冷ややかだ。


 そしてほっぺが、とてつもなく、ぷっくりと膨れている。


 あれ?も、もしかして、なんかキレてます?ノーマさん?


 俺はきっかり十秒間悩んだ。そして、


「ごめんなさい。はしゃぎ過ぎました」

 

 素直に謝ることにした。


「別に。可愛いですもんね、フラン」


 いや、ノーマのその態度のが可愛い。

 

「ふはは」


 思わず笑ってしまった。


「なんですか?」


 またノーマのほっぺがプクッた。今回は前回より規模が小さい。


「でも、本当にすごいな」

「そうですね。すごいですね。フラン…」


 そう言うノーマの顔は、どこか寂し気に見えた。

 

「みんな今日はありがとう!!!!!!!!」


 フランチェスカは最後の曲を歌い終え、舞台を横切りながら観客に手を振っていた。

 そして最後に舞台の真ん中で、大きく頭を下げた。


「最高だったよ~!!!!」

「帰らないで~!!!!!!」

「フランチェスカ様あああああああああ!!!!」


 観客達の雄叫びを一身に受けながら、フランチェスカはゆっくりと頭を上げた。


 その視線をまっすぐに、俺達に向けながら。

 

 その目以外では、笑顔を作りながら。


 あ、完全に気付かれてたな、これ…


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