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低能な料理番  作者: ミツル
第二章 皇帝の夕食

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12

 「今日の夕食は、少し趣向を変えてご用意させて頂きました」


 席についた皇帝に、エルブジがお辞儀しながらそう伝えた。


 調理をあらかた終えた俺は盛り付けをブルーノ達に任せて、先行偵察隊のノーマと一緒に見張り室からその様子を見ていた。


「ほう?何を食べさせてくれるんだね?」

「それは料理が出てからのお楽しみで」


 エルブジが合図を送ると、給仕達が食事の用意を始めた。クルクルは土鍋のままテーブルに運び、器…なるべくどんぶりに近い物を用意した…によそっていく。山盛りの大盛りに。

 野菜を具にした味噌汁は木の器に。


「なるほど。いい香りのスープだ」


 皇帝の反応は上々だ。どちらかというと、山盛りのクルクルに目が光っている。


「メインディッシュをお持ちしました」


 ブルーノが直々に皿を持ってきた。直径一メートルはあろうかという超特大大皿だ。実はブルーノ以外、持ち上げるのが困難だった。


「おお!」

 メインディッシュを見て、皇帝が唸った。


「ええ???」

 ノーマも唸った。

「あれ、さっきのと違いますよ」

「し!」

 

 ドスン、と音を立てて、ブルーノが皿をテーブルにサーブした。


 付き合わせはビリーネ…キャベツの千切りに自家製マヨネーズで作ったポテト…ベローネサラダ、どちらもたっぷりと。そしてそれを覆い隠さんばかりに積み上げられた茶色い山、それが今日の主役だ。


「これは何という料理だ」

「メリル肉の唐揚げ、でございます」

「かなり大きいな…」

 皇帝が漏らした。


「大きいですよ!さっきよりずっと!」

 ノーマが声を殺しながらも突っ込んできた。


 そうなのだ。さっき試食で出したのは腿肉を切り分けて揚げた普通の大きさの唐揚げだったが、俺は皇帝用にサイズを変えて用意した。


「メリルの腿肉を一枚、丸ごとフライにしています」

ブルーノが説明した。


 そう、特大唐揚げだ。火が通りにくくなるが、そこは低温でじっくり揚げた後に高温で二度揚げ、という方法で補った。

 その枚数、実に二十枚。

 皇帝にはこちらの方がインパクトがあって喜ばれるだろう、という理由と、もう一つは(こっちが本題だが)さっき気付いた『ある事』への対策として、そうしたのだ。


 料理がすべて揃った。


 『ラードで揚げたガッツリコッテリ特大唐揚げ定食(超特盛)』


 どうぞお召し上がり下さい。


「…ごくり」


 皇帝が唾を飲む音が聞こえてくるようだ。

 二度揚げをしたばかりの唐揚げは小さくパチパチと音を上げている。揚げたての香りが皇帝室に充満して、見張り室の中までまで漂ってきた。


「…ごくり…」

 ノーマが唾を飲む音は実際に聞こえた。


 ノーマさん、綺麗なお顔がデロデロに緩んでますよ…


 皇帝の顔も同様に緩んでいた。


「頂こう」


 皇帝がフォークを唐揚げに突き刺して持ち上げた。 

 エルブジの「お熱うございますので」という注意にも全くひるまず、そのまま唐揚げにかぶりつく。


「ううむ!」


 皇帝の目がこれでもかと見開いた。口いっぱいに頬張った唐揚げをモグモグと噛んで半分くらい処理した段階で次のひとかぶりに移る。


「は、早い…」

 ノーマがなんか悔しそうに呟いた。


 なんの張り合いをしてるんだ…


 そこからも皇帝は早かった。唐揚げを飲み込むと、クルクルをごっそり掬い上げて頬張る。そして噛むのが惜しいかのように味噌汁でそれを流し込む。ピリーネとベローネサラダを一緒にして食べる。とほぼ同時に唐揚げを…という凄まじいローテーションを繰り返していき、あっという間に唐揚げを七枚たいらげてしまった。


「ふう…」


 皇帝が一息ついて水を一気に飲み干した。

 エルブジ!俺は心の中で叫んだ。それが通じたのか、エルブジがはっとして、思い出したように切り出した。


「こちらを唐揚げに付けて召し上がってみて下さい」


 そう言って差し出したのは、小皿(皇帝サイズなので普通の皿だが)に盛り付けたマヨネーズだ。


「なるほど、ソースか」


 皇帝はマヨネーズに唐揚げを潜らせるようにたっぷりと付けて食べた。


「こおおおおおおお、これはぁ」

 

 よし!唸らせた!

 

 その様子を見ていたノーマが、振り返って俺を睨みつけた。


「あれって試食の時にはなかったですよ」

「皇帝の量だと途中で飽きが来るかもと思ってな。用意しておいてよかった」

「マヨネーズですよね、あれ、でも…」

「ふおおおおおおおおおお」


 ノーマの疑問は皇帝の鳴き声に掻き消された。

 もう皇帝は完全ロックオン状態だ。

 先程よりもさらに早い。

 そっとノーマの横顔を見ると下唇を噛んでいた。

 皇帝は途中クルクルのお代わりを挟みながら、しかし手を止める事なく唐揚げ定食をたいらげていく。


 そして味噌汁を流し込んだ時、やっと一度その手を止めて、

「このソースの鼻に抜ける辛さはなんだ」

と、やっと言葉での感想を発した。


「やっぱりそうだ。なんか色が濃いような気が…」


 やっとノーマの疑問が拾われた。


「辛子マヨネーズなんだ、あれ」


 俺は料理番室で見つけた粉辛子を練って、少しの醤油と一緒にマヨネーズに混ぜていた。マヨネーズはサラダにも使っている。同じものではどうもつまらないんじゃないかと工夫したのだが、思った以上に功を奏したようだ。


 この工程で、皇帝は付け合わせ全てと、八枚の唐揚げを胃袋に送り込んだ。


 残り、あと五枚。


 皇帝の夕食は終盤に突入した。


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