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程なくして、試作料理が出来上がった。
厨房の真ん中にある作業台に、料理を全部並べる。
「お、美味しそう!」
と、リドがクンクンと匂いを嗅いでいる。
ブルーノはさすがに興味津々で、テーブルの上に並んだ料理をまじまじと見つめている。
「イオリ、これは全部一緒に出すのかい?順番ではなくて?」
「そうだ。いっぺんに。どれでも好きなように食べればいい。そういうメニューだ!」
「なるほどなぁ…」
おそらくコース料理ばかりを作ってきたブルーノには、かなり新鮮に感じられるはずだ。
もちろん、皇帝にも。
「これが俺達の世界の、定食ってメニューだ」
「へぇ、定食…」
さて、ここからが本番だ。
俺は食い入るように熱視線を料理に注いでいるノーマの肩を叩いた。
「まずはノーマ、君に食べて欲しい」
「え?私に?」
「え?」
「え?」
「ノーマに?」
ノーマは最高潮に嬉しそうな表情を浮かべたが、他の皆は驚きを隠せなかった。試食は、きっと料理長であるブルーノがするものだと思っていたのだろう。
「もちろん皆にも試食してもらうが、まずはノーマに食べてもらいたい」
俺が真剣に言うと、ノーマは黙って頷いた。
「ははーん、なるほどね」
そう言ったのはリドだった。ノーマと仲が良いリドは、どうやら俺の目論見に気付いたようだ。
「じゃあノーマ、ここに座って」
リドが椅子を持ってきて席を作った。
定食を前に、ノーマがゴクリと唾を飲み込む。
「じゃあ、頂きます…」
ノーマが、料理を口に運んだ。
数秒後…
厨房を嵐が駆け抜けた。
感情の嵐が。
「うわああああああああああああああああああああい」
ノーマは一人、赤く染まったほっぺを抑えて唸っている。
それ以外の者は、体を貫く感情に翻弄されていた。
「これは…」
エルブジが少し後退りをした。
「ノーマの感動?」
「転移?あたりかまわず飛ばしてるのか」
「ん-久しぶり」
流石に異世界人達は直ぐに理解したようだ。
「よっし!」
作戦成功だ。
これが俺の奥の手だった。
味の分からない俺が料理の出来具合、つまり異世界人を唸らせる事が出来るものなのか、を知る為には、これが一番手っ取り早い。
問答無用、ノーマを最高に感動させられるかどうか、それが指針だ。
「は!」
我に返ったノーマが、恥ずかしそうに顔を下に向けた。が、パンパンに膨れ上がったほっぺでもぐもぐは続けている。
まだ、嵐は収まっていない。
結局、定食を食べ終わるまで嵐は吹き続けた。
時間にして、二分半。
ノーマさん、もっと落ち着いてゆっくりと食べなさい。
「美味しかったです…どれも」
顔を上げないままそう言ったノーマの頭に、俺は手を置いた。
「ありがとうノーマ。自信が持てたよ」
顔を上げたノーマが、うれしそうに笑った。俺にとって最高の瞬間だ。
「さぁ皆、食べてくれ!」
「いや、凄いなこれ」
「うん、美味い」
「メリル達も喜んでるよ」
試食分を食べた面々からも賞賛を頂いた。
「もちろん皇帝に出すときはもっと量を増やさないといけないから、今から忙しくなるぞ」
「そうか。レシピは大体わかったから、全員でやろうじゃないか」
厨房に活気が沸いた。
その時、俺の目の端に動くノーマの頭がよぎった。
「こら、ノーマ!はしたない!」
ノーマの動きに気付いてリドがたしなめた。
ノーマは手を伸ばして、残っていた皆の試食分をつまみ食いしようとしていたのだ。
「えー、だって、冷めちゃうともったいないし」
…ん?
リドがノーマの頭を軽く叩いている。「ん-」と不服そうにしながらも、ノーマはパクりとつまみ食いを敢行した。
「そうか…そうだ…」
「イオリ、どうしたんだ?」
「ブルーノ、皇帝が満足する量って、どの位必要だと思う?」
「おーそうか、そうだなぁ」
少し悩んでブルーノは、俺に試食分の十倍程度の量を示した。
「やっぱりその位はいるかぁ…」
となると…
「コースじゃないからな…」
気付いた。
「うーん」
普通ならこのままでいいが、皇帝は普通ではない。
「どうひはんでふか?ふぃオリ様」
ノーマはつまみ食いを続行している。
「うん。そうだな。そうするか」
「ろうふるんでふゅか?イほぉリ様」
「すまないブルーノ、少し追加でメニュー変更だ」
「え?」
驚くブルーノとは対照的に、ノーマは俺の顔を見てニカリとした。
「また少し悪い顔してますよ~イオリ様」
ノーマはつまみ食いを完了した。




