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低能な料理番  作者: ミツル
第二章 皇帝の夕食

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11

 程なくして、試作料理が出来上がった。

 厨房の真ん中にある作業台に、料理を全部並べる。


「お、美味しそう!」

と、リドがクンクンと匂いを嗅いでいる。

 

 ブルーノはさすがに興味津々で、テーブルの上に並んだ料理をまじまじと見つめている。

「イオリ、これは全部一緒に出すのかい?順番ではなくて?」

「そうだ。いっぺんに。どれでも好きなように食べればいい。そういうメニューだ!」

「なるほどなぁ…」

 

 おそらくコース料理ばかりを作ってきたブルーノには、かなり新鮮に感じられるはずだ。

 もちろん、皇帝にも。


「これが俺達の世界の、定食ってメニューだ」

「へぇ、定食…」


 さて、ここからが本番だ。

 俺は食い入るように熱視線を料理に注いでいるノーマの肩を叩いた。


「まずはノーマ、君に食べて欲しい」

「え?私に?」

「え?」

「え?」

「ノーマに?」


 ノーマは最高潮に嬉しそうな表情を浮かべたが、他の皆は驚きを隠せなかった。試食は、きっと料理長であるブルーノがするものだと思っていたのだろう。


「もちろん皆にも試食してもらうが、まずはノーマに食べてもらいたい」


 俺が真剣に言うと、ノーマは黙って頷いた。


「ははーん、なるほどね」

 そう言ったのはリドだった。ノーマと仲が良いリドは、どうやら俺の目論見に気付いたようだ。


「じゃあノーマ、ここに座って」


 リドが椅子を持ってきて席を作った。

 定食を前に、ノーマがゴクリと唾を飲み込む。


「じゃあ、頂きます…」

 ノーマが、料理を口に運んだ。

 

 数秒後…

 

 厨房を嵐が駆け抜けた。

 感情の嵐が。


「うわああああああああああああああああああああい」

 

 ノーマは一人、赤く染まったほっぺを抑えて唸っている。

 それ以外の者は、体を貫く感情に翻弄されていた。


「これは…」

 エルブジが少し後退りをした。


「ノーマの感動?」

「転移?あたりかまわず飛ばしてるのか」

「ん-久しぶり」


 流石に異世界人達は直ぐに理解したようだ。


「よっし!」


 作戦成功だ。

 

 これが俺の奥の手だった。

 味の分からない俺が料理の出来具合、つまり異世界人を唸らせる事が出来るものなのか、を知る為には、これが一番手っ取り早い。

 

 問答無用、ノーマを最高に感動させられるかどうか、それが指針だ。


「は!」


 我に返ったノーマが、恥ずかしそうに顔を下に向けた。が、パンパンに膨れ上がったほっぺでもぐもぐは続けている。


 まだ、嵐は収まっていない。

 

 結局、定食を食べ終わるまで嵐は吹き続けた。

 時間にして、二分半。


 ノーマさん、もっと落ち着いてゆっくりと食べなさい。


「美味しかったです…どれも」

 顔を上げないままそう言ったノーマの頭に、俺は手を置いた。


「ありがとうノーマ。自信が持てたよ」


 顔を上げたノーマが、うれしそうに笑った。俺にとって最高の瞬間だ。


「さぁ皆、食べてくれ!」


「いや、凄いなこれ」

「うん、美味い」

「メリル達も喜んでるよ」


 試食分を食べた面々からも賞賛を頂いた。


「もちろん皇帝に出すときはもっと量を増やさないといけないから、今から忙しくなるぞ」

「そうか。レシピは大体わかったから、全員でやろうじゃないか」

 

 厨房に活気が沸いた。

 

 その時、俺の目の端に動くノーマの頭がよぎった。


「こら、ノーマ!はしたない!」

 ノーマの動きに気付いてリドがたしなめた。


 ノーマは手を伸ばして、残っていた皆の試食分をつまみ食いしようとしていたのだ。


「えー、だって、冷めちゃうともったいないし」


 …ん?


 リドがノーマの頭を軽く叩いている。「ん-」と不服そうにしながらも、ノーマはパクりとつまみ食いを敢行した。


「そうか…そうだ…」

「イオリ、どうしたんだ?」

「ブルーノ、皇帝が満足する量って、どの位必要だと思う?」

「おーそうか、そうだなぁ」


 少し悩んでブルーノは、俺に試食分の十倍程度の量を示した。


「やっぱりその位はいるかぁ…」


 となると…


「コースじゃないからな…」


 気付いた。


「うーん」


 普通ならこのままでいいが、皇帝は普通ではない。


「どうひはんでふか?ふぃオリ様」

 ノーマはつまみ食いを続行している。


「うん。そうだな。そうするか」

「ろうふるんでふゅか?イほぉリ様」

「すまないブルーノ、少し追加でメニュー変更だ」

「え?」


 驚くブルーノとは対照的に、ノーマは俺の顔を見てニカリとした。


「また少し悪い顔してますよ~イオリ様」

 ノーマはつまみ食いを完了した。

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