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低能な料理番  作者: ミツル
第二章 皇帝の夕食

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7

 俺は厨房に戻ると早速ブルート達にメニューの概要を伝えた。


「そんなメニューで?」

「大丈夫なのですか?」


 ブルートだけでなく、エルブジも心配そうに訊き返してきた。ノーマでさえも今だ少し顔を曇らせている。

 

 だがひとりリドだけが、

「いいかも、それ。皇帝喜ぶかもよ」

と賛同の言葉をくれた。


 それが、他の皆の心を動かした。


「よし、じゃあやってみるか。まずは材料集めだな。イオリ、必要な物を書き出してくれ」

「あ、なら私が代筆します」


 俺はノーマに必要な材料とその量を伝えた。

 ノーマからメモを受け取ると、ブルートがうーん、と唸った。


「知らない物がいくつかあるなぁ。これはあっちの食材なのか?」

「…そうか。そりゃそうだよな…」


 迂闊だった。ブルーノ達が作る料理は俺の世界の料理と遜色はなかったが、あくまでもベースはフレンチだ。今回俺が考えたメニューはそれとは別物、無い材料があって当然だ。


「カタクリコ、ショウユ、ニホンシュ、ミリン、これは調味料なのか?」


 そうだよな。さてどうするか…片栗粉はベローネ、まんまジャガイモのあれから作ればいいとして…調味料類は今からどうこうするのはもちろん不可能だ。

 いっそあちらに取りに帰るか?だがノーマに往復を頼むのも…


「あの~」

 切り出したのはノーマだった。


「それなら、多分あります」

「え?」


 逆に俺が驚いた。あるの?


「たしか、薪会の料理番室に…」

「料理番室?」

「おおそうか!」

 エルブジが手をポンと叩いた。


「料理番の方は何日かここにお泊り頂くので、専用の部屋をご用意していたのですが、その時にあちらから持ち込まれた調味料が…」

「ほんとうか?あ、でも…」


 それは5年前の話だ。


 俺の不安そうな顔にピンと来たのか、

「保存状態を気にされているのでしたら、大丈夫ですよ」

と、エルブジが答えた。


「ずっと保管棚に入れたままですから!」

「…はぁ…いや」


 そうだとしても…


「でも、私にはどれがどれだか分からないので、イオリ様に見て頂かないと」

「…そうか、まぁ…とりあえず行ってみるか」


「それじゃあついでに農場に行ってきて」

 貯蔵庫を覗いていたリドが言ってきた。

「これじゃメリルが足りないわ」


 メリル…鶏肉の事だ。


「じゃあ私が案内します!」

「ありがとノーマ。じゃお願い」

「農場…?そんなのあるのか?」

 

 戸惑う俺の手をノーマが引っ張った。


「ありますよ!いきましょう!」

 

 相変わらずのせっかちぶりでノーマがまた容赦のない全力ダッシュを始めた。今度は担がれないまでも、ノーマに引っ張られた俺は若干浮き気味で城の敷地内を高速で移動した。


「料理番部屋は後で寄りましょう。まずは農場からです!」

 

 ノーマは浮いた俺を引き連れて城から出ると、一直線に城壁へと向かった。  

 そのままの勢いで外階段を駆け上がっていく。かなり長い階段だった。途中でへばった俺は、結局ノーマに抱えられて頂上に着くことになった。


「どうですか、イオリ様」


 俺を脇に抱えたまま、ノーマは少し自慢げに言った。顔を上げると眼下に城下町が広がっていた。


「へえ…」

 

 城下町は想像しているよりもずっと広かった。

 地平線近くまで広がる石造りの建物群は、放射線状に配置された大通りの間に整然と並び、かなり高い建造物も多い。ひときわ目立つ時計塔は城壁よりも高く、赤いレンガのような質感はこの世界にとても似つかわしく思えた。


 しかしちらほらと公園程度の緑は見えるが、『農場』と称されるべきものはどこにも見当たらない。よく考えれば当たり前で、この町は皇帝陛下のお膝元、いわば首都なのだ。この国一の都会の中に、そんな農場なんてどこにあるというのか?


「んーと、どこかな?」


 当のノーマまでがキョロキョロと探している。

 大丈夫ですか?ノーマさん。


「あ、いた」

「ん?いた?」

 

 ノーマの視線は空の彼方に向いている。


「え?何々?」


 俺もノーマが見ている方を見た。

 見えるのは青空だけだ。

 

 何もいない?

 

 目を凝らして見る。

 

 いや、いた!


 遠くに何かが浮かんでいる。だが遠すぎて、目を凝らしても点にしか見えない。


「なんだ?あれ?」


「えーと…」


 ノーマ俺の疑問を無視して、今度はごく周りを探し始めた。


「あ、いたいた」

 

 少し離れた所に、数羽の小鳥が見えた。


「おいでおいで」

 

 ノーマが手招きすると、その中の一羽が飛んできた。

 よく見て分かったのは、ノーマの掌にちょこんと乗ったのは、小鳥『のようなもの』だった。

『のようなもの』と表現したのは、その鳥の尾が羽ではなくリスっぽいふさふさとしたしっぽだったからだ。


「へーかわいいな!」

「あ、ダメです!」


 しっぽを撫でようとした俺の手をノーマが掴んで止めた。


「タムルはしっぽを掴まれると嫌がって攻撃してくるんで気を付けてください。人間の手なんて一瞬で穴が開きますから!」

「怖いよ!」

「普段はとても大人しいんですよ。じゃあお願い、ちょっと農場にこちらに来るように伝えてきて」

 ノーマがそう話しかけると、タムルが頷いた(ように見えた)。


 そして次の瞬間、タムルの姿は消えた。


 どうも飛び立った…らしい。らしいと表現したのは、その動作が早過ぎて全く目で追えなかったのと、周りの空気が大きくざわついた事からの推測だからだ。


「タムルはこの世界で一番早く飛ぶんですよ。頭も良くて、ちゃんと言葉の意味を理解してるんです。だから良く伝言を伝えるのに使われていて…」


 それはすごい。だけどタムルは向こうでどうやって伝言を伝えるのだろう?


「あ、気付いたみたいです」


 俺の心配など無用だった。ノーマの言う通り、凄く小さな点でしかなかった空の何かが、ゆっくりと大きくなってきた。こちらに向かってきているようだ。

 だがタルムと違ってそれはかなりゆっくりと進んでいるようで、なかなかその姿が判明出来る程大きくならない。

 

 遅いな…ん?

 

 それが近付いてくるにつれ、俺の口が段々と開いてきた。


「ん?え?」

 

 そして俺はそれがなんなのかを判別した。


「嘘だろ…」


 そして俺は、開いた口が塞がらなくなった。

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