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“Kitchen・KUDOU”は二階が俺の住居スペースになっている。間取りで言えば2K、風呂トイレ別。だが一部屋は店の倉庫として使っているので、実質ワンルームのようなもんだった。
「すごい!薪を炊かなくてもお湯が出るなんて!画期的です!」
ノーマは呑気に異世界人のお約束的な歓喜を上げているが、俺は全く落ち着かなかった。
女物の衣服などあるわけがなく、俺がノーマに用意したのはパジャマがわりのロンTに短パンだけだった。
下着がどうのとかは…聞けなかった。
「…これは…ヤバい…よな」
何よりこの部屋にはベッドが一つしかない、当然予備の寝具などあるわけがない。
ザブンとお湯の溢れる音が小さく聞こえた。
「あー最高!!!」
ノーマの歓喜も漏れてきた。
転移竜様はすこぶるご機嫌のようだ。
まさか同じベッドで寝るわけにはいかないよな…幸いクッションが一つあるから、俺は床で…そうだノーマにベッドを使って貰えばいい。それで解決じゃぁないか!俺は何を若造みたいに焦っているんだ。普段女っ気がないからってそんな年じゃあるまいし。そうだあくまで紳士的にだな…
「いいお湯でした。すみませんお先に。イオリ様もどうぞ!」
振り返って卒倒しかけた。
ノーマが着ているロンTのサイズ感がおかしい。胸周りだけがはち切れんばかりに張りつめている。
いや、ちょっと予測はしていたのだが…
そしてやはり下着は着けてはいないようなのだが…
いや、着けていない。確実に着けていないという証拠が見えていた。
「ひ、冷えるからこれでも着てて!」
俺はタンスからカーディガンを引っ張り出すとノーマに押し付ける様に渡して風呂場に飛び込んだ。
あくまで紳士的に、あくまで…
心が鎮まるまで湯船に浸かっていたら、メチャメチャ手がふやけてしまった…
「イオリ様ってけっこう長風呂なんですね」
いや、普段はそうじゃないんだが…
大きめのカーディガンはノーマの太ももまでを覆っていて、そこから見える生足が逆に艶めかしかった。
「明日は早く出発したいですから、そろそろ休みましょうか?」
「ああ、そうだな。ウン!ベッドはノーマが使うといいよ。俺は床で寝るから、ウン、そうしよう!ウン!それがいい!」
我ながら見事な棒読みをかました。
「あら、そんなわけにはいきません。この家の主はイオリ様なんですから、床でなんて」
「いいや、いいや!ノーマを床で寝させるわけにはいかないだろう。そもそも君はお客様だ!そう、それに明日転移もしないといけないわけだし…ウン」
俺的に精一杯の紳士的対応を試みた。
「え?そんなの一緒にベッドで寝ればいいじゃないですか」
俺の尽力をよそにノーマはあっさりと答えた。
「ええええええ!いやいやいや!そそそ、それはちょっと!いや駄目だ!仮にも男女がだな…いや、そんな決してやましい事を考えてるわけじゃなくて…なんだ、だから、その…」
俺の紳士力はあっさりと底を尽いた。
「あー、そういうことですかぁ」
なんで君はそんなに冷静なんだ?
「それなら大丈夫ですよ!」
爛漫な笑顔はやめてくれ。今の俺には眩しすぎる。
「私今は発情期ではないので!そういうの全然平気です!」
「へ?」
「おやすみなさい!」
そう言うとノーマはさっさと布団をかぶってしまった。
「へ?」
俺が愕然としている隙に、ノーマはスヤスヤと寝息を立て始めた。
「…へぇ…そういうもんなんですか…」
俺は電灯を常夜灯にすると、「失礼します」とそっと布団の端に潜り込んだ。すでにノーマは熟睡に入っている。竜がどこでも寝られるというのは本当らしい。その横顔を見る。世の中の可愛いを凝縮するとこれになるのかもしれない、そう思える寝顔だった。俺はノーマに背を向けて寝る事にした。これ以上は無理だ。
「そっちはそうでも、こっちはそうはいかないんだよ…」
思わず呟いて、目を瞑った。
当然ながら、その夜は殆ど眠ることができなかった。




