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城に着いても、ノーマはプンスカモードのままだった。
「そもそもリドは朴念仁が過ぎるんですよ!今回ばかりは皇帝が可哀想過ぎます!だいたいお料理の事ばっかり考えてるからそうなるんですよ!」
あれ、その言葉、何故か刺さってくるんですが…
「おお!イオリ!ノーマ!」
厨房に入るとブルーノが駆け足で迫ってきた。
「お前達、リドを知らないか?ここ何日か姿が見えなくて」
この件で俺とノーマが顔を見合わせたのは何度目だろう。
リドめ、やっぱり何も言わずに来てたのか。
エルブジが帰っていれば行方くらいは分かっただろうが、今はまだポラーゴ村の資金調達でオステリアに残っている。
俺達はブルーノにリドの事を話した。
「そうか、無事でよかった…それにしてもあのバカ…クビってなんだ」
まあ、そうだろうな。
「俺は給仕から話を聞いて、さすがにお互い気まずいんじゃないかと思って、暫く顔を合わせないようにと…」
大方予想した通りだったが、間違いが一つある。
リドの方には、そういう気まずさは、発生していない。
「皇帝は帰ってきてるのか?」
「ああ。なんでも体調がすぐれなかったそうで、外遊の日程を短縮して、先日お戻りになった」
すぐれなかったのは、多分体調ではないんだろうなあ…
「で、ご様子はどうなんですか?」
ノーマの質問に、ブルーノは無言で下げられていたランチの皿群を指差した。
「…」
どの皿も、申し訳程度に一口食べた跡があるだけだ。
「ずっとこの調子で…」
なんなら直接皇帝の様子を見に行こうと思っていたが、これはもう見なくても分かる。
こりゃまた重症な事で…
「イオリ様、どうしましょう?」
「うーん…」
「イオリ様の料理を召し上がれば、少しはお元気になられるかも…」
「そうは言ってもなあ…」
正直なところ、俺だって苦手な分野なんだよなー。
「執務はされておられるんですか?」
「そりゃあお仕事は山積みだからな。気丈にもこなしてらっしゃるようだが…」
責任感の強い皇帝らしいと言えばらしい。
どうせ誰にも何にも言えないまま、胸にしまって執務をこなしているのだろう。
確かに城にいる限り、周りの目もある。
皇帝という立場から逃げる事など出来ない。
中年の星は、失恋の傷心さえも胸にしまって、今日も仕事に打ち込む、と。
「まあ、実際のところは告白にさえなってないんだけどなあ…」
「イオリ様?」
「ブルーノ、今日この後の皇帝のご予定って分かるか?」
「確かいつも通りの執務で、特別なご予定はなかったと思うが…」
「そうか。すまないが今日の皇帝の夕食、キャンセルでも大丈夫か?」
「ああ。まだほとんど仕込んでないから、問題ないが…何か考えがあるのか?」
「いやー、考えって程の事でもないんだが…」
「イオリ様!」
ノーマが期待たっぷりの瞳を浮かべた。
そんな凄い事をしようとしてる訳じゃないんだけどな。
「ノーマ、すまないが俺をあっちまで送ってくれないか?」
「え、あ、はい。大丈夫です。けど…」
「その後もうしわけないけど、もう一往復頼みたいんだ。あとブルーノ、皇帝お付きの面々に話を通しておきたい」
「わかった…、イオリ、いったい何を企んでるんだ」
「ん〜」
あ、自分でも分かる。俺今、結構悪い顔してる。
「ちょっと今晩、皇帝を拉致ろうと思ってな」
「え?」
期待の瞳が、薄っすい目に代わった。




