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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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「皇帝とケンカしたあ?」


 ヒシャが淹れてくれた紅茶のカップを唇に当てたまま、リドは力無く頷いた。


「皇帝とリドとケンカするなんて考えられないんだけど」


 ノーマに同感だ。信じられない。


「いやそんな事ないでしょ。皇帝だって怒る事くらいあるわよ。ただ…」

「ただ?」

「皇帝がなんであんなに怒ったのか、今だに良くわからないんだよね…」


 俺はノーマと顔を見合わせた。


「リド、詳しく聞かせてくれない?」

「ん?ああ、うん。皇帝が外遊に出られる前日の事だったんだけど…」


 その日も皇帝はいつも通り常人離れした量の夕食をペロリとたいらげて、デザートタイムに入っていた。

 いつもと違っていたのは、フルーツムースにソースをサーブする為にテーブルについていたリドに、皇帝の方から話しかけた、という事だ。


 どうやら、皇帝なりに勇気を出したらしい。


『と、とても美味しいです。い、いつもながらリドさんのデザートは、さ、最高ですね』

『ありがとうございます。皇帝がいつも美味しそうに召し上がってくれるので、つい張り切ってしまうんですよねー』

『ほ、ほ、ほ、本当ですか!』

『本当ですよ。いつも残さず綺麗に食べて貰えて、本当に料理人冥利に尽きます!』

『あ、ああ、料理人…そ、そうですか、そうですよね…コホン。わ、私こそパティシエ世界チャンピオンのデザートをこうして毎日食べれられるなんて、と、とても、し、幸せです』

『そんなチャンピオンなんてやめて下さい。パティシエの師匠に頼まれて仕方なく出たら、たまたま上手くいっただけなんですから。新しいチャンピオンが決まれば、みんなそんな事忘れちゃいますよ』

『え、と、ということは、リドさんは今年の大会には出ないのですか?』

『出ませんよお。あの後講習会だのなんだので色々大変だったんですから。私は、私のデザートを美味しいって召し上がってくれる人の為に普通にデザートを作っているのが一番楽しいんです。出来ればずっとそうしてたいですねー』

『す、す、す、素敵です!』

『はは、ありがとうございます』

『あ、あ、あ、あ、あの、リドさん…』

『はい?』

『……………わ、わ、わ、わ、私も、リ、リドさんのデザートを、こ、こ、こ、こ、これからも、ず、ず、ず、ず、ず、ずっと食べていたい、ものです』


「ちょっと待て!」

「本当に皇帝はそう言ったの?」

俺とノーマが、思わず身を乗り出した。


「え?うん」

リドはキョトンとして答えた。


 俺はノーマと、再度顔を見合わせた。


 振り絞った勇気に乾杯!

 皇帝ダカン・ロカ、あんた頑張ったな!


 だが、問題はここからだ。


「で、リド、なんて答えたの?」

「え、ああ、うん、えーとね…」


『そう言って貰えて嬉しいです。大丈夫ですよ。私パティシエを辞める気なんてありませんから!まあ、これから先、そうですねー、例えばもし結婚したりしても、ちゃんとお城の仕事は続けるつもりですし!安心して下さい!』

『え?』

『そうですねー、皇帝がお妃様を貰って、お子様でも産まれたら、その時は私のデザートで家族団欒、午後のティータイムでも楽しんで頂きたいものですね!』

『え?え?』

『皇帝もいつまでもお一人でなく、早くお妃様を貰った方がいいですよ!』


 ノーマが無言のまま、崩れ落ちるように腰を下ろした。

 

 俺も、膝に力が入らない。

 無理だ、座ろう。


「どうしたの?二人とも?」

「それで、皇帝はどんな反応をしたのかしら」

言葉の出ない俺達に代わって、アルページュが聞いてくれた。


「どうもこうもないわ。急に黙りこくって。いきなり立ち上がってそのまま退室しちゃったの。肩が震えてたから、きっとかなり怒ってたのね」


 いやー、それ、きっと怒ってたんじゃないと思うなあ…


「やっぱりご結婚の話とか、踏み込んだ話題がいけなかったのかなあ…」


 いや、むしろもっと深く踏み込んであげて欲しかった…


「あの〜私まだ子供だからよくはわかんないんだけど…」

ミラが探るような視線で俺を見てきた。


「もしかしてそれって、結局皇帝が振ら…ムグムグ」

ヒシャが慌ててミラの口を塞いだ。


 こんな子供でもわかるような事なのになあ…


「で、その後すぐにブルーノに呼び出されて、明日から暫く城にでてくるな!って。これってやっぱクビだよね?」


 その質問には誰も答えなかった。

 代わりに、俯きっぱなしだったノーマががばり、と頭をあげた。

 その表情が、険しい。なかなかに、険しい。


「イオリ様」

「そうだな…」

俺とノーマは、席を立った。


「すまないが俺達はちょっと城に戻ってくる。ヒシャ、ワインの熟成、頼んでもいいか?」

「大丈夫ですよ。任せておいて下さい」

「私も手伝うから大丈夫よ」

「今はチーズもそんな手がかからないから、全然平気だよ」」


 頼もしい返事だ。


「え、なら私はどうしようかな?いっかい帝都に帰った方がいいかなあ」


 ノーマが立ち上がりかけたリドの両肩を、がっしりと押さえ込んだ。


「あなたはここに残って、しっかり反省してなさい」


「ふ、ふぁい」


 竜の激昂に、リドは尻餅をつくように、座り直した。


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