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「ふへー!でっかい」
出来上がった桶を見上げて、ノーマが目を白黒させている。
俺がオーダーしたのは、竜が2、3頭入れる位巨大な桶、だった。
目の前に聳え立つそれは、まさにその注文通りの大きさだ。
「強度の方は大丈夫か?」
『これならブレドが踏んでも大丈夫だ!』
申し分無い。これだけの桶を瞬く間に作るとは、ティムロー達の技術はなかなか凄い。
レストランじゃなくてこっちで稼いだ方がいいんじゃないのか…
「よし、じぁあ桶にブドウの身を皮ごとたっぷり入れてくれないか?」
『わかった』
ティムローとアトミクスは、おもむろに保管庫の屋根を外すと、ブドウを取り出して実を外し始めた。
なるほど、そういう仕組みなんだ…
「すみません、言われた通り、ありったけの壺を集めてきました」
いいタイミングでティムローの手下達が集まってきた。
事前に頼んでいた人間用サイズの壺が全部で30個程。思った以上にあった。飲み水用に使っていたものだが、人口の減少で放置されていたらしい。
「よし!ノーマ!ラサイ!出番だぞ!」
「え?何?なんですか?」
「あたしも?」
「そうだ、二人が主役だ。あのな…」
俺は二人に今からの趣旨を説明した。
「楽しそうですね!」
「うわーやるやる!」
二人とも目からキラキラが飛んでいる。
『おーい、実を入れ終わったぞ』
ナイスタイミングだ!ティムローくん!
「じゃあ始めるか!」
「はーい!」
数十秒後、村中の住民が集まってきた。
皆、驚いた顔つきで、目の前の光景を眺めている。
ズシン!ズシン!
二匹のメスの竜が、桶の中で楽しそうにブドウを踏みつけている。
もちろん、ノーマとラサイだ。
「これがブドウ踏み。実から果汁を搾る、ワイン作りの最初の行程だ」
「めちゃくちゃ楽しそうね」
「いいなあ。私もやってみたい」
「いや、こればっかは竜じゃないと無理だよ」
言いながら振り返ると、アルページュもリドもそこにいなかった。
代わりに、おばあちゃん軍団が、キラキラした目で俺を囲んでいた。
「あんたなかなかやるじゃないか!」
「ああ、こりゃなかなか楽しい行事だわい!」
「ブドウを足げにするなんてと思っていたけどこれはなんだか神聖なものにも見えるぞい」
「ちょっと協力させて貰ってもええかのう?」
「え?あ、はい。協力って何を?」
おばあちゃん軍団が顔を見合わせて、笑った。
同時に全員で手拍子を始めた。
そして…
♪おらのブドウは魔法のブドウ〜一粒食べてみなさいな♪
全員で合唱を始めた。
ポラーゴ村の労作歌なのだろう。合唱は瞬く間に村人全員に伝染して、大合唱になった。
ノーマとラサイも声に合わせて足踏みをし始めている。
♪光り輝くブドウの実〜たちまち恋におちるのよ♪
二匹の竜は、歌に合わせて舞うようにブドウを踏み、住民達が手拍子でそれを讃える。
「完成した…」
俺が思い描いていた理想の『ブドウ踏み』の光景が広がっていた。
「イオリ!これ最高じゃない!」
リドが手拍子しながら言った。
「楽しい光景だ」
カーサも力強い手拍子をしている。
「これは俺の世界では、いいワインの出来を祈って行われるお祭り的なもんなんだ」
「いいわね。村の目玉行事になるかもしれないわね」
プロデューサー殿は集客まで見込んでいるようだ。
「神聖な儀式的な要素もあるからな!本来ブドウの踏み手は、村の乙女でなければいけないとされてて…」
俺のその言葉を聞いて、ラサイが一瞬動きを止めて、すぐに目を逸らしたが、ノーマが気付いてないようなので、スルーしよう…
♪ポラリカポラリ〜ポラポラリ〜ポラリカポラリ〜ポラポラリ〜♪
「こんな楽しそうな村、久しぶりに見たなあ」
ティムローが、目を潤ませていた。
後に『竜のブドウ踏み祭り』として村一番の観光行事となる催しの、これが始まりだった。




