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低能な料理番  作者: ミツル
第一章 異世界への招待

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11

「報酬が出るんです」

 ノーマは紗友里に聞こえないように小声で話した。 


「報酬?」

「はい。薪会の料理番には、皇族から謝礼として報酬が出るんです!」

「まじで?」

「こちらの世界でいくらの価値かは正確にはわかりませんが、前任者はいつも、こんなに頂くのは申し訳ない、とおっしゃってましたからかなりの価値かと…」

 

 思わず唾を飲み込んだ。


「それって具体的にはどのくらい?」

 

 ノーマが指を二本立てた。

「純金貨で二十枚」


 思わずノーマの両肩を掴んだ。


「払えますか?家賃?」


 思わずぶんぶんと頷いた。


 金貨の正確な価値は俺も分からないが、それなら家賃を払っても充分お釣りが出る額になるはずだ。


「おい、どうした?何コソコソ話してる?払えんのか?」

 威圧という熱風が俺の背を焼いた。


「どうします?イオリ様」

 目の前の天使、いや竜が微笑みかけてくる。


 …まさかこいつらグルなんじゃ?


「………」


 料理は気持ちで作るもの、ばあさんの言葉が頭を巡った。


「…わかった」

「!」

「やるよ、料理番」

「やったあ!」

 

 ノーマのしてやったりの笑顔が悔しいくらい魅力的だった。


 毎日店で作るオーダー料理は無理としても、月一のしかもこちらでメニューを決められる料理だ。しっかりと準備すればなんとかなるかもしれない。

 確かに不安はある、あるが…


 俺にはさっき思いついた『秘策』がある。


「…姉ちゃん、大丈夫だ」

「お、払えんのか?家賃」

「ああ、きっちり払ってやるよ」

「へー、それだけ言ったんだ。遅れたらどうなるか…」

「ああ、わかってる」

「ふーん。まあいいだろう」


 紗友里は踵を返すとドアノブに手をかけて、ふと思い出したように聞いた。


「お前、名前は?」

「あ、ノーマと申します」

ノーマが丁寧にお辞儀で返した。


「ノーマ、庵のこと、よろしく頼んだよ」

「はい!」


 出ていく間際、紗友里がほんの少し笑っていたように見えたが、多分俺の目の錯覚だろう。

 

 紗友里が出て行った後、ノーマのテンションはさらに上がった。


「イオリ様、さっそく帝国に戻りましょう!エルブジ様に報告しないと!」

「いや、今日はもう遅いから明日でもいいんじゃないか?」


 正直俺は疲れ切っていた。よく考えたら退院したばかりなのだ。病院での出来事がはるか昔のように感じる。


「あ、そうか!そうですよね、お疲れですよね。エルブジ様には明日伝えて驚かせましょう!」

 そう言ってノーマは制服の袖をまくり上げだした。


「じゃあとりあえず私はお風呂でも沸かしましょうか?お風呂はどこですか?」

「え?ちょっと待て?風呂?風呂に入るのか?」

「ええ、寝る前にお風呂に入るのが私の世界では当たり前なのですが、こちらでは違うのですか?」

「いやそうじゃなくて。まさかノーマさんこっちに泊まる気なんじゃ?」

「はい。だって明日帰るのでしょ?」

「いやいやいや!駄目だ!」

「え?なんでです?」

「いや、その、なんだ。あー、俺の部屋は若い娘が寝泊まりするような綺麗なもんじゃないし…そもそも狭いし…」

「あ、私なら全然大丈夫です。竜はどこでも寝れるのが特技ですから!それに異世界転移ってけっこう疲れるんですよ。今帰って明日の朝またお迎えに来るなんて面倒臭いです!」


 慌てる俺に対して、ノーマはあっけらかんとしたもんだった。


「ね!」

 小首を傾げてにっこりと笑う。


 結果、俺が折れた。


 

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