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「報酬が出るんです」
ノーマは紗友里に聞こえないように小声で話した。
「報酬?」
「はい。薪会の料理番には、皇族から謝礼として報酬が出るんです!」
「まじで?」
「こちらの世界でいくらの価値かは正確にはわかりませんが、前任者はいつも、こんなに頂くのは申し訳ない、とおっしゃってましたからかなりの価値かと…」
思わず唾を飲み込んだ。
「それって具体的にはどのくらい?」
ノーマが指を二本立てた。
「純金貨で二十枚」
思わずノーマの両肩を掴んだ。
「払えますか?家賃?」
思わずぶんぶんと頷いた。
金貨の正確な価値は俺も分からないが、それなら家賃を払っても充分お釣りが出る額になるはずだ。
「おい、どうした?何コソコソ話してる?払えんのか?」
威圧という熱風が俺の背を焼いた。
「どうします?イオリ様」
目の前の天使、いや竜が微笑みかけてくる。
…まさかこいつらグルなんじゃ?
「………」
料理は気持ちで作るもの、ばあさんの言葉が頭を巡った。
「…わかった」
「!」
「やるよ、料理番」
「やったあ!」
ノーマのしてやったりの笑顔が悔しいくらい魅力的だった。
毎日店で作るオーダー料理は無理としても、月一のしかもこちらでメニューを決められる料理だ。しっかりと準備すればなんとかなるかもしれない。
確かに不安はある、あるが…
俺にはさっき思いついた『秘策』がある。
「…姉ちゃん、大丈夫だ」
「お、払えんのか?家賃」
「ああ、きっちり払ってやるよ」
「へー、それだけ言ったんだ。遅れたらどうなるか…」
「ああ、わかってる」
「ふーん。まあいいだろう」
紗友里は踵を返すとドアノブに手をかけて、ふと思い出したように聞いた。
「お前、名前は?」
「あ、ノーマと申します」
ノーマが丁寧にお辞儀で返した。
「ノーマ、庵のこと、よろしく頼んだよ」
「はい!」
出ていく間際、紗友里がほんの少し笑っていたように見えたが、多分俺の目の錯覚だろう。
紗友里が出て行った後、ノーマのテンションはさらに上がった。
「イオリ様、さっそく帝国に戻りましょう!エルブジ様に報告しないと!」
「いや、今日はもう遅いから明日でもいいんじゃないか?」
正直俺は疲れ切っていた。よく考えたら退院したばかりなのだ。病院での出来事がはるか昔のように感じる。
「あ、そうか!そうですよね、お疲れですよね。エルブジ様には明日伝えて驚かせましょう!」
そう言ってノーマは制服の袖をまくり上げだした。
「じゃあとりあえず私はお風呂でも沸かしましょうか?お風呂はどこですか?」
「え?ちょっと待て?風呂?風呂に入るのか?」
「ええ、寝る前にお風呂に入るのが私の世界では当たり前なのですが、こちらでは違うのですか?」
「いやそうじゃなくて。まさかノーマさんこっちに泊まる気なんじゃ?」
「はい。だって明日帰るのでしょ?」
「いやいやいや!駄目だ!」
「え?なんでです?」
「いや、その、なんだ。あー、俺の部屋は若い娘が寝泊まりするような綺麗なもんじゃないし…そもそも狭いし…」
「あ、私なら全然大丈夫です。竜はどこでも寝れるのが特技ですから!それに異世界転移ってけっこう疲れるんですよ。今帰って明日の朝またお迎えに来るなんて面倒臭いです!」
慌てる俺に対して、ノーマはあっけらかんとしたもんだった。
「ね!」
小首を傾げてにっこりと笑う。
結果、俺が折れた。




