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ティムロー達の村、ポラーゴはホテルから竜の背に揺られて約二時間位の距離だった。
土地勘がないので詳しくはわからないが、上空からは周辺に都市らしい都市は見当たらなかったので、やはり僻地は僻地なのだろう。
だが景観は素晴らしい。
続く山々は高く、所々山頂に万年雪を抱き、砂漠を超えてすぐの土地とは思えない。
遠くには広大な草原も見える。
行った事はないが、中央アジアとか、その辺りをイメージした。
山の尾根に広がる森林、ブドウ畑が見えると、十二頭の竜達はゆっくりと高度を下げ、村に着地した。
想像していた通り、簡素な村だった。
一番大きな建物は、村の中央にある収穫したブドウ用の保管庫。それもあちこち補修の跡が見える。
周りに並び建つ土塀の家は、どれも一様に小さく、古い。
「思った以上にど田舎ねぇ」
俺は敢えて口に出さなかったぞ。容赦無いなアルページュ。
「素敵だわ。理想的」
ああ、そうなんですか…褒めてるんですね…
村の住民達が、待ち構えていたように俺達を囲んだ。
ティムローが話していた通り、お年寄りばかりだ。
立派な髭を蓄えた、いかにも長老といった風情のお爺さんが、嬉しそうにティムローに歩み寄ってきた。
「ティムローや、ご苦労じゃったな。さすがわしの孫じゃ。嫁を五人も連れて帰って来るとは」
「あ、いや、じぃちゃん、その…」
お爺さんの言う五人とは、ノーマ、アルページュ、ラサイ、カーサに、そしてリドだ。
何故リドまでここに一緒に来たのか?
もちろん嫁に来たわけではなくて、それにはちゃんと理由がある。
あの後、アルページュ先生のお説教に若者達がメタメタにされていた時、リドがデザートを携えてホールに入って来た。
『あらあら、みんな今にも泣き出しそうじゃない。美味しい物食べた後なのにどうしたっていうの?』
皇帝の時といい、リドはいつもいいタイミングで場を和ませてくれる。
俺は事の成り行きをリドに説明した。
『へえ、いいじゃないレストラン!面白そう!』
『でも、アルコールですよ。下手したら世界を敵にする可能性だってあるんじゃ』
当然ながらオスタニアでも、発酵品、特にアルコールはご禁制である。
『うーん。大丈夫じゃない?』
リドはあっけらかんと答えた。
『近いうちに、その規制は無くなっていくと思うわ。このイオリのおかげでね!』
リドの平手が俺の背中にバシン、と入った。
『本当か?』
幾つもの期待の視線が向けられてしまったので、
『任せてくれ!』
と、大見得を切ってしまった。
まあ、後に引く気は毛頭ないのだが。
『じゃあデザートでも食べながら、作戦会議と行きましょう!』
『何を作ったんだ?』
『パイ生地が余ったから、ヨーグルトムースとブドウで、タルト風に仕上げてみたの』
『美味しそうね。さすがだわ』
『ちょっと待ってイオリ様!私達まだポレイリ料理を食べてないです!』
『大丈夫だよノーマ。ちゃんとみんなの分もある』
『やった!』
その後再度起こった地震やら、突風やらで一瞬ホール内は騒然となったが、概ね作戦会議は和やかに進んだ。
結果、ポラーゴ村レストランの総合プロデュースを、アルページュが引き受ける事になった。
『言い出したのは私だから、当然よ』
そして、
『では当面の資金は私がなんとかしましょう』
とエルブジが申し出てくれた。
『私の一族はこちらで広く事業を手掛けておりますので。話を通しておきます』
やっぱり只者ではなかったな…エルブジ。
『メニュー開発は、イオリにも協力して欲しいんだけど』
『もちろん』
『それと、デザートメニュー、リドにお願いできないかしら?』
『乗りかかった船だし。いいわ。引き受けるわ』
『ほんとですか?』
『すげえ!』
思わぬパティシエ世界チャンピオンの参入に、ティムロー達が色めきだった。
『ただし…ワイン作りに私も参加させてもらうわ!』
そういういきさつで、リドもポラーゴ村にやって来たわけだ。
ティムロー達の説明に、村の年寄り達は意外にも乗り気な反応を見せた。
「村の未来の為には、ごちゃごちゃ言い訳をしていても始まらん。可能性があるなら、なんでもやらねばな」
素敵なお爺さんだ。
「そういう事だイオリ。ワイン作り、村をあげて協力させてもらおう。まず何から始めればいい?」
ティムローの顔つきが、やる気の満ちたいい顔になっている。
ならば俺も全力で打ち込むまでだ。
「じゃあまずは…」
「まずは?」
「でっかい桶を作って貰おうか」
「は?桶?」
ポラーゴ村ワインプロジェクトは、ティムローの訝しげな表情でスタートした。




