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「少し、話を聞いてくれるか?」
ひとしきり無様な姿を見せてタガが外れたのか、ティムローの表情からは虚栄が消えていた。
「もともと俺達の村は裕福な村じゃない」
「裕福じゃないって、オステリアで一番のブドウ名産地じゃないのか?」
「それは言い換えれば、ブドウ作りしか能がないって事だ」
「でも、あれだけのブドウが…」
そう言いかけた時に、袖を誰かに引っ張られた。
いつの間にかノーマが隣に来ていて、
「オステリアでは、ブドウは帝国のように保護されていないんです」
そう小声で告げてきた。
「四年前に、酷い不作があってな」
「ああ、あの大熱波の年か?」
カーサの言葉に、ティムローは自虐的な笑いを浮かべて小さく頷いた。
「収穫はいつもの三分の一もなかった。かろうじて収穫できた分も、とても名産として出せるような品質じゃなくてな」
「じゃあその年は?」
「村の収入はほぼゼロに近かった」
「うわ、キッツ…」
同じ農家としてそれがどういう事が分かったのか、ラサイが眉間に深い皺を寄せた。
「村を救う為には働き手が他の町へ出るしかなくなった。ここにいる皆の父親は、いまでも他の土地で離れて暮らしている」
手下達が皆、辛そうに俯いた。
そうか、こいつら全員、一様に若い。
多分、十代、いっても二十歳がそこらだ。
四年前なら、まだ子供と言ってもいい歳だ。村の大人達はそんな子供達に村を任せるしかなかった。
そして今でも、身を粉にして村の再興の為に慣れない土地で働いている、ということか。
悲惨な状況だ。
ティムローが辛そうに口を噤んだ。唇が小刻みに震えている。
「そうなると現金なものでな…」
アトミクスが言葉を継いだ。
「村を捨てるやつらが後を絶たなくなった。出稼ぎに出た父親のもとへ移住したり、家族ごと大きな町へ引っ越したり。俺達の幼馴染達も、働ける歳になったらみーんな町へ出ていった。私、お洒落なレストランでウエイトレスの仕事をするの、もうブドウ作りなんて時代遅れだから、なんだとさ…」
「バカな事言わないでよ!」
「ラサイ、そう言うお前だって都会に行ってお洒落なレストランとかで働きたい、なんて思った事あるんじゃないのか?」
「そんなの、ない…よ…」
もうやめとけ、というようにティムローが首を振ってアトミクスを止めた。
「まぁそんなわけでな、今村は右を見ても左を見ても年寄りばかりになっちまった。ブドウ畑で働いている若者は、ここにいる俺達だけだ」
「だけって…そんな…」
ノーマの驚きも分かる。
十人、十人だぞ。たったそれだけ?
村の規模は知らないが、セプティム村の事を考えれば、それがどれだけ大変な事か。
急激に進んだ過疎、見えない未来…
ティムローのあの強がった態度は、本当に虚栄だったのか。
「なるほどな」
カーサが口を開いた。
「それでお前たちは、ここ数年嫁探しや働き手探しに躍起になってたのか」
「カーサもそういうの知ってたの?」
「ああ、私も二年前、こいつに求婚されたからな。即断ったけどな」
「でぇ?」
「はぁ?」
ノーマとラサイに呆れ顔を向けられて、ティムローが青ざめまくった。
「いや、だから、有力な種族と縁類関係が築ければ、村も救われるんじゃないかとか、そういう…」
「ああ、それで私にも求婚してきたと…」
「いや、あの、違…ノーマは、すごく可愛かったし、あ、いや、もちろんカーサさんもとてもお綺麗で…」
いや、ティムロー君、二人のジト目を見ろ。
多分もうダメだぞ…
「あなた、バカじゃないの?」
一閃、もう本当にバッサリと、だった。
そのバッサリぶりに、全員がアルページュに注目した。
レードルを肩にトントンしながら、少し苛立った様子のアルページュは、ずいと進み出ると、ティムローに向かってずいと顔を突き出した。
なまじ秀麗な顔つきだけに、余計に迫力が凄い。
たじろいで後ろに下がろうとしたティムローの首に、ガシっとレードルの首をひっかけて逃がさないようにすると、アルページュは、
「救いようのないおバカさんね」
と、鋭利なトドメを差した。
小悪魔の頭に、鬼のツノが生えているように見えた。




