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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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「うまひ、うまひよう」


 ティムローは真っ白に曇ったメガネを外して、腕で涙を拭いながら、もぐもぐを続けている。


 ハンカチでチーンしてやりたいくらいだ。


 それにしても横一列に並んだ屈強な男達が泣きながら食事する姿は…


「…むさ苦しいわね」


 アルページュ、声に出てるぞ。


「俺達のブドウが、こんな豪華な料理に」

「甘酸っぱくて、肉がめちゃくちゃ美味しく感じる」

「ポレイリとブドウがこんなに合うなんて」


 手下達の言葉に、ティムローがやっと顔を上げた。


「俺達のブドウが凄いんだよ!だからこんなに美味いんだ!」


「は?美味いのはポレイリが凄いからだろ!」

カーサがギロリと睨むと、ティムローはぴん!と身体を伸ばして、

「ええ、もちろんお肉も凄いです!はい!もちろん!」

と汗を大量に飛ばして答えた。


 …残念ながら、どちらも正解じゃ無いんだよな。


 俺は、漬け込み終わった肉からヨーグルトを洗い落とさずに、そのままシーズニングして下焼きをした。

 そしてさいの目に切ったブドウを煮込んで塩だけで味を整えたシンプルなソースと絡めてから少し休ませて、リドのパイ生地で包んだ。


『ああなるほど。それいいじゃない』

と、アルページュにも褒めて頂いた。


 ブドウのソースを作る時はバルサミコと合わせる事が多い。発酵が生み出す深い酸味が甘さを引き立ててくれる。

 

 だが、当然この世界には発酵酢など無い。


 当初は酸味の強い果汁(あのスカイブルーのレモン的なやつとか)を煮こんで代わりにしようかと考えていたのだが、ヨーグルトの登場がそれに代わった。

 プレーンヨーグルトの深い酸味を利用してみたのだ。


 まあ、ぶっつけ本番の行き当たりばったりだけどな…

 

 だかそのおかげで、大地を揺るがすリアクションを拝む事ができた。


 ブドウも、ポレイリも確かに凄い食材だった。新鮮なだけではない。ブドウを味見したリドは、皇室で使いたいと言っていたし、ポレイリを料理しながらアルページュは終始うっとりとしながら、後でもう一度採りに行きましょう、と誘ってきた。

 ティムロー達やカーサ達の深い愛情を感じる、最高の食材だった。

 だがその食材を更に美味しく結びつけてくれたのは、発酵食品、ヨーグルトだ。


 これはもうヒシャとミラの大ファインプレーだな。


 結局、ティムロー達は全員食べ終わるまで、その涙を止める事はなかった。

 

 全員がナイフとフォークを置いた時点で、さすがに居た堪れなくなったのか、エルブジが給仕達に指示して全員にナプキンを配ると、一斉にそれを鼻にあてがった。


「チーン!」


 いささか無作法だが、鼻をかむ音の合唱が、俺達の料理勝負の終わりを告げた。

 勝敗の結果は…


「…俺達の乾杯だ…」

ティムローが、潔く認めてくれた。


「こんなに美味い物を食ったのは初めてだ。…凄かった」


 大丈夫、真っ赤な目と真っ赤な鼻の頭で、それは充分に伝わってます。


「いや、いいブドウだった。あれがなかったら、こんなにいい料理は出来なかったと思うよ」


 嘘は言っていない。

 火を通して他の食材と合わせて使える事を加味して、若めの実を送り込んでくれた配慮。

 何よりもブドウそのものの質。

 ブドウの専門家として、ティムロー達は間違いなく一流だ。


 俺の言葉に、ティムローが苦笑いを浮かべた。


「いくらいいブドウが作れても、村が無くなったらそれでおしまいだ…」


「え?」

「どういう事?」

 ラサイとノーマが眉をひそめた。


 アトミクスが、また涙を零し始めたティムローの肩に手を置いた。


「今、俺達の村は窮地に陥っているんだ」

 

 アトミクスが差し出したナプキンを受け取ると、ティムローはそれを再度鼻にあてがった。


「…チーン」


 今度の音は、小さく、勢いのない音だった。


 


 

 

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