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「どうもどうも御二方。とても楽しみにしてますよ」
テーブルの真ん中で、ティムローのメガネが光っている。
ティムロー達は長いテーブルに横一列に並んで座っていた。
今日のテーブルセッティングはエルブジの采配だが…知っててやったのか?
「なんか、見た事ある絵柄…」
アルベージュが耳打ちしてきた。
対峙する俺達からは、ティムロー達の姿はどう見てもあのダビンチの名画にしか見えなかった。
「これであいつらも最期ってことかしら」
アルベージュ、それは縁起でもないぞ。
「ブドウを届けてくれてありがとう。良いブドウだった」
「うちのブドウにケチをつけられて勝負をあやふやにされては困るからな」
そこでニヤリと笑うか…ほんと悪役スキルに長けてるな。ティムロー君。
「失礼します」
エルブジが入室してきた。
エルブジに続いて、ラサイとノーマが入室すると、ティムロー達は一気に色めき立った。
「ノーマ!相変わらず美しい!私のノーマ!ああ本当に世界一だ。会いたかったよ!」
と、ティムローがノーマの寒気と鳥肌を呼び起こしたのは一応想定内だったが、他の連中、アトミクス達も同時にざわめき立ったのは意外だった。
「ラサイだ。ラサイも一緒だ」
「本当だ!ラサイもいるぞ」
「え、あれが?あのラサイ。うわー」
あれ?反応がなんかおかしいが…
当のラサイは白々しく顔を横に向けて口笛を吹く、ふりをしている。
この娘、ボラーゴ村の連中に何をしたんだ?
ざわめきは尚も続くかと思われたが、最後にカーサが入室してくると、それはピタリと収まった。
「カ、カーサ…なんでここに?」
ティムローは額に汗を浮かべていた。
「知り合いなのね」
「そうみたいだな…」
「ティムロー様。ご無沙汰しております」
言葉は丁寧だが、声色からは迫力しか感じない。
「あ、ああ、そうだな。に、二年ぶりかなぁ…」
ティムローは子供でも描けそうな位の愛想笑いを浮かべている。
他の連中も一様に目が泳ぎ、一様に肩をすぼめて縮こまっていた。
こいつら、白の番人に弱味でも握られているのだろうか?
「今日の勝負、私が見届け人を頼まれました。それでいいですか?ティムロー様」
ティムローが汗を飛ばす勢いで数回頷いた。
その時、給仕口がそっと空いて、リドが顔を覗かせた。
リドは小さく頷いて合図を送ってきた。
「では用意が出来たようですので」
合図に気付いたエルブジが夕食会の開始を告げると、ホテルスタッフ達が料理を運び入れてきた。
同時に、部屋全体に甘い香りが充満した。
バターと小麦粉が生み出す、甘くて、香ばしい、食欲を掻き立てる香りだ。
「ゴクリ…」
誰かが喉を鳴らした。
俺はノーマだと気付いたけどね…
「こ?これは?」
目の前に運ばれた皿を見て、ティムロー達が目を見開いた。
「これが?夕食?」
アトミクスが零した。
皿の上にはブドウが一房、載せてある。
香ばしい、黄金色の焼き色に染まった、パイ生地で形作ったブドウの房だ。
最高の焼き色と装飾。リドの技が冴えわたっている。
「な、なんだこれは…」
おや、ティムロー君。わなないているね?
「こんなデザートで、俺達が満足するわけがないだろう!」
うんうん。理想的な反応アザっす。
「あら~、誰がデザートなんて言ったのかしら?」
いいぞアルベージュ。勝負らしくなってきた。
「ソース!」
アルページュは、フロントマンがタイミングよく差し出したソースパンを受け取ると、もう片方の手で掴み上げたレードルをクルクルと回しながら頭上高く掲げた。
リハーサルしたかのような演出だ。
いや、多分してるな…
「さっさとナイフを掴んで、パイを切り開きなさい!」
「ぐ…」
ティムローは眉間にこれでもかと皺を寄せると、ナイフを摘み上げて、慎重にパイの真ん中に突き立てた。
「!!!!!」
噴き出した。
と言っても過言ではない。
パイに包まれて封じ込まれていたその香りは、湯気と共に切り口から飛び出して、勢いそのままティムローの鼻を直撃した。
「ぐご!」
変なうめき声と共にティムローは銃で撃たれたみたいに顔をのけぞらせ、そのまま固まってしまった。
よっし!
思わず拳を握る。
最高のリアクションだ、ティムロー君!
香りはそのまま部屋中に広がった。
「…この香り…」
気付いたかい?ノーマ。
「あ、これって」
ラサイの顔がぱっと明るくなった。
「袋を破いた時のブドウの香りだ!」
最高の解説だ、ラサイ君!
「うわ!」「ぐう!」「ふわ!」「どお!」「うげ!」「ぶお!」「あが!」「はふ!」「ぐば!」
手下たちも続いてパイにナイフを立てて、次々とその香りに打ちのめされていく。
なんか機関銃を打ってる気分だ。
「うーん、超楽しいわあ」
アルページュ、声に出してるぞ。
「お、おい!これ、肉だ」
いち早く復活したアトミクスが気付いた。
「なんだと!」
ティムローもパイの中を覗き込んだ。
「ブヒ!」
ノーマの胸で、ポーちゃんが嬉しそうに鳴いた。
「そうです。今日の料理は、新鮮なポレイリを新鮮なブドウと合わせてみました」
パイとブドウの香りに遅れて、焼けたポレイリの香りがふんわりと染み出してきている。
「ポレイリ肉のパイ包み焼き、ブドウの甘酸っぱいソースと共に。どうぞ召し上がって下さい!」
アルページュがレードルをソースパンに軽く当てて、鐘の音を演出した。




