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改めてポレイリ肉と向き合う。
本当に綺麗な肉だ。
砂漠を生き抜く逞しいその生命力が、ここに詰まっているのだろう。
「よし!」
肉を切り分けていこう!
厚さに少し迷ったが、
あいつら、めっちゃ喰いそうだったなぁ…
ティムロー一味の顔を思い浮かべて、いつもの倍の厚さで切った。
かなり分厚くしたつもりだったのだが、バカでかい塊からは、十五人前のステーキ肉がとれた。
玉がもう一つで三十人前。
ティムロー一味が十人だったから、もう充分なんだが…
リドが作る生地を見ると、座布団どころかちょっとした布団位の大きさまで広げられている。
思わず笑みがこぼれた。
しょうがない、ここにいる全員分、いっきにやるか!
「この肉、筋切りは要らないわよ」
アルページュの言う通り、ポレイリ肉には筋がなかった。
そもそも動く為の肉ではないからだろう。
切った肉を並べて、フォークを突き刺して全体に穴を開けていく。
これで味がしっかりと染みわたるようになる。
全体に軽く塩コショウした肉を、バットに並べていく。
アルページュが手伝ってくれた。
「ふふふん♪」
鼻歌混じりでご機嫌な様子だ。
「やっぱり大人数の料理作るのって楽しいわねぇ」
何かと人騒がせなところはあるが、やはり生粋の料理人なのだ。
確かに俺もすごく楽しい。
…そういう意味では、この状況を作ってくれたこの小悪魔に感謝するべきなのかもしれない。
「肉を並べてそれからどうするの?」
作業を終わらせたリドが見学に来た。
「ここから、肉に魔法をかけるんだ」
「魔法?」
おれはあの革袋を台上に置いた。
ヒシャから届いた革袋だ。
中にはたっぷりとヨーグルトが入っている。
「こうするんだ」
俺はお玉で掬い上げたヨーグルトを、静かに肉の上にかけ広げた。
「え?」
リドが驚いている。
すかさずアルページュが、かけたヨーグルトを手で肉に塗り広げていく。
「イオリ、もう一杯」
「ほい!」
さらにたっぷりとかけたヨーグルト。
肉一枚一枚丁寧に、裏表、しっかりと、全部を覆うように塗り広げていく。
俺も塗り作業に入った。
ひんやりとした肉とヨーグルトの感触が、楽しい。
「ふふふふ~ん♪」
アルページュの鼻歌が、さらにノッてきている。
すこぶるご機嫌のようだ。
三バット分、三十枚の肉にヨーグルトを塗り終わったら、更に上からヨーグルトを注いで、肉を漬け込む。
「さあ、これで一時間くらい寝かせればオッケーだ」
「これが魔法なの?」
「そう。これで肉が劇的に柔らかくなる」
「味に深みも出るのよ」
「へえ~」
リドは不思議そうにヨーグルトを覗き込んでいる。
それも当たり前の反応だ。
多分、これはこの世界で初のヨーグルトなのだ。
「ねえ、これ少し食べていいかな?」
「あら、さすがね」
アルページュが感嘆した。
俺も同感だ。
普通ならば、初めて目にするこの得体の知れない白色のゲル状物質を、食べたいとは思わないはずだ。
リドもやはり生粋の料理人なのだ。
この料理人の好奇心こそが、料理の世界を新しく切り開いていく。
それは、誰にも止められない。
スプーンで掬ったヨーグルトを、リドは恐る恐る口に運んだ。
「ふん!」
一回鼻息で気合を入れてから、勢いをつけてパクリ、と食べた。
「んんんんんん!」
リドの頭が跳ね上がった!
見開いた目が、さらに大きく広がる。
砂糖も何も入っていない、プレーンヨーグルトだ。
さすがに初めてでは口に合わなかったか?
だがすぐにリドの口角が大きく跳ね上がった。
「おいしいいいいいいい!」
これがリドでなくノーマだったら、きっと厨房に嵐が吹き荒れていただろうな。
「なにこれ…初めての味…酸味と、どこか甘みと…後味のこれって…」
リドはうっとりとしたように、独り言を言った。
目を瞑り、もう一度何かを確かめるように、口をもごもごと動かす。
そしてその目を物凄い勢いで見開くと、めちゃくちゃ楽しそうな顔で、
「イオリ、これ私に分けて!なんか美味しいの出来そう!」
と、ぐいぐい迫ってきた。
やはりリドも、生粋の料理バカのようだ。




