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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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「すみませんイオリ様、届いたブドウを確認して頂きたいのですが…」


 エルブジの顔に翳りが見えた。


 なんだ、ティムローの奴、朝採りとか言いながら、腐った実でも送りつけてきたのか?


 「こちらです」


 ノーマ達とロビーに出ると、ど真ん中に昨日見た銅像と同じ大きさのブドウが一房、鎮座していた。

 銅像と違うのは、その色が透明感のある薄い緑だということ。まさにマスカットグリーンだ。

 それにしても一体何キロあるんだろう?俺の見立てだと、一粒でデザート三十人前はいけそうだ。


「触ってみて下さい」


 エルブジに促されるまま、実の表面にそっと手のひらを当てた。万が一にも潰さないようにと考慮しての力加減だったが、思いの外その表面は、硬かった。

 弾力もほとんど感じられない。ギュッと締まっている感だ。

 

 なるほど、これは…


「どうも少しばかり若い実のように感じるのですが」

「そうだな…アルページュ!」

 既にアルページュはナイフを手にしている。

 ナイフをクルリと逆手に持ち変えると、アルページュは躊躇なくそれをサクリと実に突き刺した。


「ふうん…」

 突き刺した感触で何かを悟ったのか、アルページュはそのままナイフをぐるりと回して、皮ごと果実を円錐状に切り出した。

 それを口に運び、サクリ、とかじる。


「へえ」

 感心したように漏らした。


「これってまだ完熟してない実じゃないですか」

 さすがにノーマは見ただけで分かったようだ。

 アルページュが果実を差し出すと、ノーマが反射的にそれにかじりついた。

 瞬間、唇をすぼめる。


「やっぱひ、まらすこひすっぱひ!あいふゅら、ころもみたひな嫌がらへして!」


 なるほどまだ酸味が残っていると…


「へえ…」


 ノーマは嫌がらせと言っていたが、もしこれを判ってて送ってきたのだとしたら….


「意外とやるじゃないか。あのインテリメガネ」

「そうね」

「え?」

「大丈夫よノーマ、これでいいの。さあ、運んで頂戴。そうだ。その子は私が預かっておくわ」

「…大丈夫」

 

 二ヘラ顔で迫るアルページュから遠ざけるようにポーちゃんを脇に抱え直すと、ノーマは、

「ふん!」

と気合い一発、片手でブドウを持ち上げた。


 ノーマが持ち上げたブドウを意味なく回転させ始め、慌ててエルブジが止めに入った時、調度ラサイが皮袋を抱えて帰ってきた。


「ちょっと何遊んでんの?人が朝っぱらから転移してきたっていうのに」

「あら、おかえりラサイ」

「ありがとうラサイ。お使い頼んで悪かったな」

「ほんとよ。あんな草原のど真ん中の魔女の家に初見で転移なんて、難易度高すぎ」


 ラサイには、ヒシャの所へカードを取りに行ってもらっていたのだ。


「それで、カードは?」

「あ、それなんだけど」


 ラサイが皮袋の口紐を解いた。


「きっとイオリはこっちのが喜ぶはず!ってミラちゃんが」


「うわあー!良い香り!」

「ブヒヒ!」

 ノーマとポーちゃんが同じ反応をした。


広がったのは、爽やかな、りんごにも似た、酸味の香り。


「え?まさか?」


 中には純白の水々しい半固形物がたっぷりと入っている。


「えーと、なんて言ってたかな…たしか…」


 この香り、カードじゃない。これは…


「嫁狂い!」

「いや、ヨーグルト!」


 すかさずアルページュが指でそれを掬って、口に運んだ。


「ほんとだわ。これ、ヨーグルトよ」

「作れたのか?」

「あ、魔女さんが、ミラと色々試してたら出来ちゃった!て言ってましたよ」


 そんな軽いもんじゃないだろ。

 過去の挑戦では上手くいかなかったと聞いていたのに。天然の乳酸菌からそれに辿りついたんだ。おそらくかなりの試行錯誤を繰り返したはずだ。


 それにしても今回のカードの使い道は別に伝えてなかったんだけどな。


「ラサイ、こっちの事情って伝えたのか?」

「ええ、ざっくりだけど」


 それで俺が何をしようとしているか読んで、ヨーグルトを送ってくれた、と。

 

 侮れないな、発酵少女隊。


「これでかなり理想的な仕込みができるな」

「そうね。まずはお肉から始めようかしら」

「何が出来るか、めっちゃ楽しみです!」

「ブヒ!」


 うん、なかなか良い料理ができそうだ。


 俺はティムローのメガネが、感情の暴走で弾け飛ぶシーンを思い浮かべていた。


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