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ホテルに帰ると、待ち人が到着していた。
「ヤッホー、ノーマ!」
「リド!なんで?」
ロビーのソファで、リドがヒラヒラと手を振っている。
「今回の助っ人に、俺が頼んで来てもらったんだ」
「皇帝がおでかけ中で暇だったから、ちょうどよかったわ」
因みに昨晩のうちにタムルを飛ばして、早朝ラサイにお迎えに行ってもらった、という段取りをしたのはエルブジだ。
「道具はひとしきり持ってきたよ」
大きな皮のトランクをぼん、と叩く。
それとは別に、衛兵のサーベルくらいの長さはありそうな麺棒をリドは抱えている。
「私をわざわざ呼び出したって事は、お客様が多いんでしょ。大量に仕込むのかなと思って」
さすがだ。察しが良すぎて怖いくらいだ。
そんなリドが、どうして皇帝の気持ちには気づかなんだろう…
「それよりも…」
リドは立ち上がると、つかつかとノーマに近付いた。
「ノーマ、どうしてそんなの抱っこしてんの?」
「えへへ。かーいーでしょう」
「ブヒ?」
ノーマの胸で、ポレイリが鳴いた。
実はあれからずっと抱っこしっぱなしなのだ。
通常採取が済んだポレイリは、速やかに砂漠に還される。
そういうルールらしい。
理由はいくつかある。
一つはもちろん自然保護の為。もう一つは人に飼われたポレイリは、しっぽの玉を作らなくなってしまうから。そしてもう一つ、あくまでもポレイリからは恵みを頂いていて、その立場は対等のものだという、白の番人達のイデオロギーに基づくもの。
では何故いまこの可愛い貯金箱が、ノーマの胸に埋もれて、気持ちよさそうに寛いでいるのか。
それにも理由がいくつかある。
一つは、このポレイリの背中に、引っ掛かれたような傷が残されていたこと。どうやら最近外敵に襲われたらしい。それほど深い傷ではないが、厳しい自然界ではそれでも致命傷になりかねない。そういう場合、白の番人達はポレイリを保護して治療してから群れに帰す。
そして一番大きな理由がある。
ポレイリが、一瞬でノーマに懐いてしまったのだ。
引き離そうとすると、鳴きながら暴れてノーマの胸から離れようとしない。
お前さてはオスだな、と思ったがどうやらそういう理由ではないらしい。
元々ポレイリは強い生き物ではない。砂漠では常に様々な肉食動物に狙われていて、群れの移動範囲が異常に広いのも、その外敵から身を守る為の手段の一つだ。
それ故に自分達に害を及ぼさないが強い個体、というのに特に敏感で、よく超大型の草食獣(ビホゲルという砂漠を泳ぐ生物がその代表らしい)の傍について移動する習性があるらしい。
つまりノーマは、傷ついている自分を守ってくれる、ものすご~く強い個体、と認識されたわけだ。
なかなか見る目があるな、ポレイリ。
「でも、勝手に連れてきたら白の番人が黙ってないでしょ?」
「それならば大丈夫だ」
エルブジの後ろにいたカーサが答えた。
「え、白の番人?こんな所に来るなんて珍しい」
どうやらリドは白の番人について知識があるようだ。
カーサがついてきたのは、もちろんポレイリの為。それと、
『お前がポレイリの肉でどんな料理を作るのか是非見てみたい』
という理由からだ。
どうもこの番人、俺の正体になんとなく気付いてるっぽい。
「私が許可をした。このポレイリは現在保護対象だ」
「へぇ、あなたそんな決定が出来る番人なの?かなり若そうだけど…」
「そうだな…」
カーサが、頭の麻布を解いて素顔をさらした。
「ふわ~」
思わずリドが感嘆した。
そこにいる誰もが同じ感想だった。
漆黒の髪、褐色の肌。
そして、凛とした美しい顔つき。
(想像はしていたが)カーサは、物凄い美人だった。
「白の番人現族長である私の決定だ。何も問題はない」
「ふわ~」
今度は俺が思わず感嘆した。




