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カーサが懐から何本か穴が空いた石の玉を取り出した。
他の二人に目配せすると、カーサはその石をかなりの勢いで投げた。その瞬間石から甲高い笛の音が鳴り、砂の谷に響き渡った。
やばい、ポレイリが逃げ…というのは素人判断だった。
ポレイリ達は一斉に上空を見上げて、放物線を描いて飛ぶ石に注視している。
次の刹那からの番人達の動きは圧巻としか言いようがなかった。
カーサが指を鳴らして合図すると同時に三人は丘の頂上から飛び出ると、物凄い速度で砂の斜面を駆け降りていった。
前のめりに、一切体制を崩す事もなく。
間違いなくテルモットよりも早い速度で。
瞬く間に倒木に辿りついた三人にポレイリ達が気づいた時にはもう遅い。
カーサは飛び上がると一番手前のポメイリに飛びかかり、頭の玉をガッシリと抱っこした。
すかさずもう一人が尻尾を掴むと、それを引っ張ってポレイリの全身を引き伸ばし、さらにすかさずあの男の番人が腰から抜いた蛮刀を振り落とす!
と、見事にお団子が一個と二個に切り離された。
「いやあ!」
思わぬ殺戮シーンにノーマが悲鳴をあげて顔を伏せた。
石が着地して、笛の音が消えた。
他のポレイリ達は砂中へと逃げ消えた。
砂の世界を静寂が埋めた。
その静寂が砂に染み込みかけた時、
「ブヒ!」
鳴き声がした。
「え?」
「あれ?」
ノーマが顔を上げた。
すでにカーサは丘を登りきって目前に立っていた。
その胸の中で、ポレイリのあの貯金箱の部分が、短い足をバタつかせている。
後ろの玉を繋いでいた、つまり切断された部分は、クルンと丸まって、正式なブタしっぽになっている。
「…か…」
ノーマが立ち上がった。
カーサに向かって両手を差し出す。
カーサがポレイリを差し出す。
ノーマの瞳がハートになった。
「かっわいーーーーー!!!!」
ノーマがポレイリをギュッと抱きしめた。
ポレイリは一瞬ビックリしたが、直ぐにすりすりするノーマの頬をペロリと舐め返すと、もう一度「ブヒ」と鳴いた。
可愛い…いや確かにかなり可愛いのだが、どうなってんの?
「ポレイリは砂漠の生き物です」
「え?エルブジ」
いつの間に復活したのか、エルブジがしれっと俺の隣でポレイリに優しい眼差しを向けている。
「厳しい自然環境を生き抜く為に、彼らはその尻尾部分に養分を送り込み脂肪やタンパク質として溜め込む事が出来ます。それがあの玉なのです」
男の番人がお団子を抱えて丘を登ってきた。
つまりあれか、ラクダのコブ的なあれなんだな。
「しかし玉を作りすぎると、それが活動の負担になって弱る事もあるらしく…」
あ、あれってまだ増えるのか…
「それでポレイリの通常活動を守る為もあり、白の番人は定期的にその玉を切り、採取するというわけです」
「玉数でいうと二つ。これが最適な採取時だ。玉も脂がのって美味いぞ」
カーサがポレイリの頭をさすった。
貯金箱はその瞳を気持ちよさそうに瞑ると、
「ブヒヒ」
と嬉しそうに鳴いた。




