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砂漠のライディングは想像以上にヘビーだった。
砂漠というのは想像以上に起伏が激しい、それを思い知らされた。
急こう配を登り始めたと思ったら次の瞬間ほぼ同じ角度を下る。底に到達したらまた一気に登る。
テルモットは砂漠の生き物としてとても優秀で、完全に地面に張り付いたまま姿勢を崩すことなく猛スピードで移動していく。唯一優秀でないのは、乗り手の都合をあまり考慮していない点で、俺は激しい上下動にのべつまくなしに翻弄され、急激な左右の移動に終始振り回されっぱなしだった。
カーサがしっかりと掴まるように注意した訳が痛い程分かった。
いや、実際とても痛い。首が、腰が…
ただ激しく揺れる度に、カーサの柔らかい重みが腕にのしかかってきたり、時には強~く押し当てられたり、あまつさえ太鼓のバチの如く叩きつけられたりしてくるのが唯一の救いだった。
だが、大きな揺れに頭を振られて並走するノーマを見た時、その瞳の炎が全く消え去ることなく、そして激しい揺れにも全く揺るぐことなく俺をロックオンしている事に気付いてからは、その救いは拷問に等しいものに変換された。
ああ、もう無理だあ…
いろんな意味で限界を感じ始めた時、やっとカーサがテルモットの速度を緩めた。
助かった?いや、まだノーマの視線はロックオンを解いていない。
俺はごく低速になったテルモットの上で、そっと手をカーサの身体から離した。
丘を登りきる少し手前で、テルモットは停止した。
「あの…カーサ?」
話しかけようとした俺の口をカーサが掌で覆い、立てた人差し指を口に当てた。
白の番人達がテルモットから降りた。
実を屈めてゆっくりと丘の頂上へと進み、そこで腹ばいになった。
エルブジの騎手をしていた男の番人が、手招きで俺達を呼んだ。
俺とノーマは番人に倣って丘を登り、彼らの横で腹ばいになった。
ん?あれ?エルブジは?
振り返って確認すると、エルブジはテルモットに跨ったまま天を仰ぎ、微動だにしていない。
その目には瞳がなく、キッと結ばれた口の端から、細かい泡が溢れ出ていた。
ご年配者にはこのアトラクション、刺激が強すぎたか…
カーサがごく小さいしぐさで前方を指さした。
丘のふもとに巨大な倒木が横たわっていた。
半分砂に埋まった倒木は、枯れて砂と同じ色になっていて、地面と一体化しているように見える。
少しの間観察していると、倒木の上で、白い何かが複数体、動いた。
最初は、それが何なのか理解できなかった。
いや、形だけは認識できた。
丸い、まずは丸い。
大きさは…学校の地球儀位か?
その白い球が、倒木の上を這って進んだ。
進んだ分、身体の次の部分も前に進んだ。
次も…丸い。まんまるい。
あ、また少し進んだ…
あ、また丸い。
…お団子
いやどうしてもそう表現するしかない。
大きな白い球が三つ。細い管のような胴体(だと思う)で繋がっていて、最後の玉の後ろには、細いしっぽがまっすぐピンと飛び出している。
お団子は全部で五本…いや五匹。倒木の上を這う様に動いている。
どうやって動いているんだ?目を凝らす。
気配に気付いたのか、お団子が振り返ってこちらを見た。
「!」
カーサの手がなかったら叫んでいただろう。
振り返ったその顔は、見慣れた、つぶらな瞳の、可愛らしい、豚のそれだ。
それだけじゃない、お団子の一個目には、太くて短い足が四本生えていた。
あれは、あの姿は…
あの最後には割っちゃう貯金箱にしか見えないんだが。
その貯金箱が短い足をちょこちょこと動かして、後ろの二玉を引きずるようして動いているのだ。
あれが…ポレイリ…
異世界の豚は、恐竜でも、怪獣でもなく…何だろう…いやあんな生き物どう表現したらいんだ?という姿をしていた。




