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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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 鶏は恐竜、牛は怪獣、さあ、豚はなんだ?


 夜明け前の空気が冷たい。吐いた息がふわりと白く舞う。

 砂漠の夜は寒いと聞いていたが、体験するまではここまでとは思っていなかった。


 ここがポレイリが生息するドゥオー砂漠か…


 フロントマンが言っていた通り、ホテルから馬車で小一時間も進むと、景色が急に砂色一色の世界に変わり、そして直ぐに震える程の冷気が馬車を包んだ。


 腕に重さがかかっている。


 頭までマントにくるまったノーマが身体を密着させてきて、俺のマントの中に突っ込んできた腕をからませてから暫く経つ。


 おかげてすごくあったかい。


 ノーマが寒さ対策でそうしてくれているのか、それとも昨晩の余韻でそうしているのかはわからない。


 いつか、ちゃんと聞こう。


「そろそろ約束の場所です」

御者台のエルブジが、振り返らずに言った。


 フロントマンがタムルで段取りをしてくれた、()()との待ち合わせの場所だ。

 

 ()()とは、『白の番人』と呼ばれる、砂漠の民の事だ。


 他の動物と違いポレイリには家畜がいないらしい。

 理由は、ポレイリの好む生息地が砂漠地帯であること。そしてその活動範囲がとても広く、生息する砂漠一個分全てがその移動範囲なので、狭い敷地で飼おうとしても直ぐに逃げてしまうからだそうだ。


『過去にはなんとか飼育しようと挑戦した者もいるそうですが、ことごとく失敗したそうです』

『ことわざで、絶対に成功しない事ばかりを繰り返す事を、ポレイリを飼う、て言うくらいですもん』

 エルブジとラサイが教えてくれた。


 つまり今この世界で流通しているのは、野生のポレイリ肉、いわゆるジビエのみというわけだ。

 

 そしてそのポレイリの動きを常に把握し、砂漠中を駆け巡り、その肉を()()事を生業としているのが『白の番人』なのだ。


『ただ()()だけではなくて、ポレイリが繁殖しやすい環境の保持や、密猟者から守ったり、彼らはそういう仕事もしております』


 なるほどな。それで『番人』というわけか。

 

 空が薄く白み始めた。


「彼らです。約束通りの時間ですな」


 前方に枯れ木が一本立っている。

 その下に、三騎の人馬が見えた。こちらに向かって手を振っている。


 近付いてまず気付いたのは、彼らが乗っているのが馬ではないという事だ。

 頭や長く伸びた首はラクダに似ているが、砂と似た色の丸い胴体からは虫のような足が左右に四本ずつ、計八本伸びていて、全体の様子は蜘蛛のそれだ。足の先端が円盤状のヒズメになっていて、なるほどそれで砂に埋もれることなく移動できるのだとわかる。


「テルモット、砂漠の移動でよく使われる生き物です」

ノーマがそっと教えてくれた。

 

 真ん中の一騎が前に進み出た。


「この砂漠で白の番人をしているカーサよ。あなた達がポレイリを欲しがっている人達?」


 女性の、しかも若い声だ。

 

 女性だと気付かなかったのには訳がある。

 馬上(でいいのか?)の人物達は皆、白い帯状の麻布で全身を覆っていて、そこから目だけを覗かせているからだ。


 その風貌が『白の』部分の根源だな。


 赤に近い茶色の瞳が、砂漠の民に相応しい。


「連絡をしたエルブジです。こちらはイオリ様に、ノーマ。帝国から来ました」

「ふうん…」


 カーサはテルモットをゆっくりと動かして馬車の横につけると、俺達の顔を順番に、確認するように見つめてきた。


「あなたはオステリアの人間ね。そこのお嬢ちゃんは…へえ、珍しい…」


 赤い瞳にはそういう能力でも備わっているのだろうか。カーサは二人の素性を瞬時に見破ったようだ。


「そしてあなたは…」


 表情は見えないが、口調と目線で、俺の正体を探りあぐねているのが分かった。


 暫く俺を見つめていたカーサは、

「まぁ、悪い人間には見えないわね。いいわ」

とありがたく結論付けてくれた。

 

「ここからは馬車では無理よ。こちらに移って頂戴」


 俺達は言われるがままに馬車を降りた。


 最初ノーマはカーサの後ろに乗ろうとしたが、

「ごめんなさい、この子は人間以外の匂いを嫌う癖があるから、あなたは別のに乗って」

と言われてしまった。


 エルブジはさっさと一番大きいテルモットに跨っている。

 それに乗っている番人は体つきも大きく肩幅も広いので、どうやら一人だけ男性のようだ。


 なるほどエルブジらしい紳士な選択だ。


 結果俺がカーサの後ろに乗る事になった。


「しっかりと掴まって!ほら!」

 言うなりカーサは俺の両手を引っ張って自分の腰へ巻きつかせた。


「!」


 細い腰のしなやかな感触が、腕に伝わってきた。


 それで気付いたのだが、番人達は麻布の下には何も着けていない。


 締めた腕の上部分に、カーサの柔らかい重みがとさっ、と乗ってきた。


「少し走るから。砂漠の景色でも楽しんでて頂戴!」


 カーサが気遣ってくれたが、俺は隣の騎上から刺さってくる燃え盛るような視線に、それどころではなかった。

 

 その赤い瞳は、砂漠の民のそれと違って、真の恐怖を感じさせる能力があるようだ…


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