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「へえ、言うじゃないか!」
例の背の高い若者が、腕まくりをしながら前に進み出た。
「上等なのは見てくれだけじゃなく、度胸もすごいってことか?」
凄んで言ってるがセリフがほぼ褒め言葉なんだよな…
「あらぁ、あなたこそ見てくれだけじゃなくて、頭の中も野蛮なのねぇ」
「な、なんだとお!」
アルページュの才能が爆発したところで、ティムローが掌を上げて男を制した。
「やめなさいアトミクス。私達は争い事に来ているわけじゃないですよ」
そう言うとティムローは階段をゆっくりと上がっていき、アルページュと対峙した。
不必要に距離が近い。
「美しいお嬢さん」
「アルページュよ」
「ではアルページュ、つまり君は私達となんらかの勝負をして、君が負ければノーマを引き渡してくれると、そういう事を言ってるんだね」
言いながらティムローはどんどん顔をアルページュに近付けていく。
それに合わせて、アルページュは不快そうにどんどん顔を引いている。
いや距離感…
「いきなりあの距離感ないよねー」
「…だからそういうところなのよ」
ラサイとノーマの評価を聞くまでもなく、アルページュの表情を見ればわかるのだが、どうやらティムローは特に女性からの評価を下げるスキルに長けているようだ。
「で、受けるのかしら?」
逃げられない言い方というのは存在するんだなぁ…
「いいでしょう。受けて立ちましょう」
アルページュとティムローが同時にニヤリと笑った。
「で、その勝負というのはどういうものですか?」
「イオリ!いるんでしょう?」
いるんでしょうも何も、最初から確認してたんだろうに…
俺はノーマとラサイを鉢植えの陰に押し入れる様に隠しながら、歩み出た。
「ああ?お前誰だ?」
ティムローは不機嫌そうに聞いてきた。
相手が男だと態度が変わるんだな…
そういうところだぞ…
「彼もノーマの連れの一人よ」
アルページュが手招きしたので、俺は男達の差すような視線の間を通って階段を登った。
「彼と私は料理人なの。特に彼は凄腕の料理人よ」
「ほお…それで?」
「私達が貴方達に料理を振舞うわ。その料理で貴方達全員を感動させる事が出来たら、私達の要望を聞いて貰うわ」
「感動しなかったら?」
「その時はノーマを焼くなり煮るなり好きにすればいいわ」
その瞬間鉢植えの葉の隙間から、燃えるような赤い双眸が見えたが、アルページュの態度は一ミリも変化しなかった。
「判別はどうされるのです?私達がシラを切れば済む事ではないのですか?」
お、ティムロー、自らそれを言うとは意外と正直者だな。いやそれともバカなのか。
「あらぁ?」
アルページュはわざとらしく驚いたように見せた。
「貴方達全員転移竜なんでしょう?しかも若い人ばかりだわ。私達の料理を食べて、感情を飛ばさないわけがないもの」
なるほど、そういう事か。
確かにそれなら一目瞭然だが、言い方だ…
「こいつ!もう勝った気でいやがる!」
アトミクスが吠えた。
「食材は貴方達が好きに選んでいいわ。そうね、明日のディナーという事でどうかしら?」
「ほお、いいですね」
ティムローがアトミクスに目配せをした。
「おい、お前ら、今日の所は一旦帰るぞ。明日改めてごちそうになるとしよう」
アトミクスの号令で、若者たちは一斉に踵を返し始めた。
「では…」
振り返ったティムローの目には意地悪そうな色が浮かんでいた。
「明日朝一番に、村の朝採りブドウを届させましょう。それを使って料理を作って頂きたい」
え?ブドウ?
「いいわよ。任せて頂戴」
任されちゃったよ…
勝負の詳細が決まったところで、ティムローが俺の目前につかつかと寄ってきた。
「ところでお前、ノーマのなんなんだ?」
「イオリはね、ノーマのいい人よ」
アルページュウウウウウウウウウウウウ!
「ああ?」
ティムローの血走った目が、俺の顔数ミリの距離まで迫ってきた。
だからそういうところだぞ、ティムロー君…




