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低能な料理番  作者: ミツル
第四章 帝国の美魔女

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 想像していたよりもずっと大きな宿だった。

 

 街道沿いの離れ宿と聞いて、西部劇に出てくるような酒場と一緒になった木造の宿屋を想像していたのだが、白い石作りの十階建て、専用口の緩やかなスロープを下った地下に広い馬車置き場があって、馬車を預けると係員が一階のフロントロビー迄案内してくれた。

 ロビーも広く、とても高い天井から、大きな照明石がいくつもぶら下がっている。

 静かな音楽が流れ、とても落ち着いた雰囲気だ。


「これはもうホテルだな…」


「こっちでもこんな大きな宿は珍しいわね」 

 アルページュも、

「うわ…すご…」

「お城みたい…」

 竜達までもがこの様子なので、この世界ではかなり稀有なのだろう。


「いらっしゃいませ。お久しぶりでございます。エルブジ様」

 清潔感溢れる男性のフロント職員が、うやうやしく頭を下げた。

 

 訓練された、プロの接客だ。


「ありがとう。突然で申し訳ないのですが、部屋を用意して頂けますか。出来れば一人ずつで。あと馬車を数日預けたいのですが」

「畏まりました。五名様でお間違いございませんか?」


 こちらからは人数を伝えてないが…おそらくロビーに俺達が現れた時点で確認済みなのだろう。


 職員は手元の帳簿を一瞬だけ確認して、

「ご用意できます」

と笑顔でほぼ即答した。

 

 これも予めアタリをつけていたのだろうな。

 こんなところで、プロのホテルマンに会えるとは思わなかった。

 

 それぞれにベルマンがついて、部屋まで案内してくれた。


「VIP対応ね…」

「さすがは帝国の執事長…」

「エルブジ様の実家は、オステリアでも有数の貴族らしいです」

「なに、ただ古くから続いているだけですよ」

 エルブジは照れているが、案内するベルマンの緊張ぶりが半端ない。


 ただの涙もろい爺さんじゃないんだな。


 部屋は並びで用意されていて、それぞれ同時に部屋に入って、同時に(エルブジ以外が)

「うわー」

と歓声を上げた。


 広い、ドアとドアの間隔で想像はしていたが、それをはるかに超える奥行きだ。

 広いテーブル、落ち着いたデザインの大型ソファー、どこまでも寝返りがうてそうなベッド。


 ここに全員で泊まっても差し支えなかったんじゃないか。


「ではごゆっくりお寛ぎ下さい」

 ベルマンが部屋を出ると、しんとした部屋に(防音設備も完璧のようだ)ポツンと残されたような感覚を覚えた。


 いやもう俺の実家なんて足元にも及ばない程広くて豪華なんですが。


 要は慣れてなさ過ぎて落ち着かないのだ。


 貧乏人の性だな…


 俺はベッドに横たわって、沈み込むようなその柔らかさに少し戸惑ってから、天井を見上げた。

 少し落ち着いていたが、ノーマの顔にいまだ笑顔は浮かんでいなかった。


 プロポーズされて断った相手に会いに行くのだ。それは確かに気まずいだろうな。


 ただあの様子だと、それだけじゃなく、多分ティムローが相当苦手なタイプなのだろう。


 …そうに違いない…


 身体を倒して目を瞑ると、慣れない馬車旅に疲れが出たのか、眠気が広がってきて、直ぐに思考がそれに飲み込まれた。


 ノックの音で目が覚めた。

 少しぼうっとしたままドアを見ていると、もう一度ノックが鳴った。

 すこし遠慮がちな、躊躇しているような、そんなノックだった。

 

 ドアを開けると、俯き加減で立っていたのは、薄い部屋着姿のノーマだった。


「どうした?ノーマ?」

「あの、ちょっとお話がしたくて…その、いいですか?」

「もちろん。あ、どうぞ…」


 しずしずと部屋に入ってきたノーマは、少し迷ったように一度立ち止まってから、ベッドの上にぽすん、と腰かけた。

 その動きで、昼間見たブドウ象の実のようにまんまるとした二つのふくらみが、左右別の動きでぽすん、と揺れた。


 あれ?そこ?そこでいいのか?ノーマさん…


「座らないんですか?」

「お、おお、あ、ああ…」


 ノーマの横に座ると、沈み込んだベッドの傾きでノーマの肩が俺の肩にもたれる様に触れた。


「あ!ごめんなさい!」


 真っ赤になって慌てる様が、驚異的に可愛い。


 ノーマが(あと俺の鼓動が)落ち着くまで少し無言でいた後、先にノーマが顔を上げた。


「すみません。なんかあんな広い部屋に一人でいると落ち着かなくて…」

「いや、俺もそうだったから丁度よかったよ」

「あは」

 やっと小さく笑ったノーマの頬が、まだ紅い。

 だがその紅さは、さっきの照れて赤いのと違って、ふわんと、少しの熱を持って、ほんのりと頬を染めている。

 

 俺を見る瞳が、少し潤んでいる、ように見えた。

 

 肩が、いや全身が一気に硬度を増した。


 俺は小さな頃から料理一筋できた男だ。

 要はこういう雰囲気に慣れてなさ過ぎて落ち着かないのだ。


「イオリ様…」

 頬と同じ色の唇が小さく震えている。


『そろそろそういう時期だから…』

 ラサイの言葉が頭に浮かんできた。


『そろそろ腹を括る時期かもしれませんよ』

 エルブジの言葉が、頭をよぎった。


 え?なになに?そういう時期がきちゃったわけ?


 俺の身体が、驚異的な勢いで、硬度を増した。


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