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低能な料理番  作者: ミツル
第一章 異世界への招待

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9

 俺は、自分の現状をノーマに話した。


 事故の事、怪我の事、そしてそれが原因で俺は今、料理人として低能この上ないというその事実を…


 ノーマは静かに俺の話を聞いていた。あまり表情を変えることなく、しかし話を聞き終わった頃には俯いたまま、なんの反応もしなくなった。


「…まぁこれが、薪会の仕事を断った、もう一つの、いや、本当の理由だよ。俺には、もう人に出す料理なんて作れない」


 ノーマは無言のままだ。優しい娘だ。少なからずショックを受けているのかもしれない。俺にかける同情の言葉でも探しているのだろうか?

 

 だが直ぐにノーマは顔を上げた。


 微笑みながら。


「何つまらない事言ってるんですか?」

「は?」

「そんな事くらいで、料理人でなくなっちゃうんですか?」

 

 あっけらかんとした言葉に、逆に驚いた。


「いや、でも味が…」

「この皿を見てください!」


 ノーマはつまんだフォークで皿の端を叩いた。

 キン!と澄んだ音が響く。


「一瞬で空っぽですよ!こんな美味しいパスタ初めて食べました!そもそも私が感情を飛ばしちゃうほど感動した料理ですよ!」

「あ、まぁ、そうだけど」


 フン!と鼻息を鳴らしてノーマが立ちあがった。両手を腰に当てて、仁王立ちで俺を睨みつけてきた。


「こんな料理を作れる人が、なんで無能な料理人なんですか?大体なんです?味が分かんない位でクヨクヨクヨ情けない!イオリ様は今までずっと料理が好きで、ずっと修行してきたのでしょう!さっきの料理している姿を見れば、どれだけ料理が好きかくらいわかりますよ!」


 ここに来てノーマのテンションは最高潮に達しているようだった。


「まぁ、そりゃ少しはハンデかもしれないですが…」


 少し?なのかなぁ?


「でも料理って、気持ちで作るものなのでしょう?」

「!」


 その言葉に、息が止まった。


 そして俺の中に、幼い頃の記憶が蘇ってきた。


 俺は台所に立つばあさんを傍で見上げていた。

 ばあさんはいつもにこにこ笑いながら料理をしていた。その顔が好きだった。


『ねぇばあちゃん、俺にもばあちゃんみたいな美味しいごはん作れる?』

『もちろん』

『でも俺、作り方あんまり知らないし、手だってまだちっちゃいから包丁もうまく持てないし…』 

『そりゃあ作り方を勉強したり、材料の切り方を練習したりするのは大事だけど、それは後からいくらでも出来る事だから。それよりも美味しい料理を作りたい、食べさせてあげたい、っていう気持ちの方が大事。だからね…』


 ばあさんは俺の頭に手のひらをぽすん、と置いた。


『美味しい料理てのはね、気持ちで作るもんなんだ』


 その時のばあさんの笑顔と、ノーマの笑顔が一瞬ダブって見えた。


「私、確信しました」

「何を?」

「やっぱり薪会の料理を作れるのは、イオリ様をおいて他にいません!」

「いや、だけど」

「他に、いません!」


 ノーマはカウンターに乗り上げるようにして顔を超至近距離に近づけてきた。


 近い近い!正面からは反則だ!どうする、ちょっと体を前に出せば、そのふっくらと柔らかい唇に触れることも可能だが。あーいっそ明日死ぬとかそんな状況だったら決心がつくのに!


 そんな邪な葛藤を抱いた時だった、それを溶かし去る声が、店内に響いた。


「おい、イオリ、お前何してんだ」


 甘酸っぱい焦りの汗が、ゼロ時間で冷汗と脂汗に変化した。



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