お弁当、こ弁当
ある弁当屋では二人の若者が働いていた。
血縁関係がないにも関わらず、瓜二つと言える程似ていたが、大きさだけが一回り違っていた。ちょうど、同じ人間の縮尺だけを変えたようである。
ある常連客が二人を、お弁当、こ弁当と呼び始め、いつしか他の客もそう呼ぶようになっていた。
昼のピークを過ぎ、客が途絶えた頃、カウンターに立つ二人のうち、こ弁当が口を開いた。
「以前から思っていたのだが、こうもそっくりな俺たちは、大きさも同じくらいになる可能性があったのではないか?」
「かもしれんな」
「ということはだ。違いは二人の育った環境にあるのだろう。生まれ育ったのはどの辺りだ?」
「この辺りだ」
「俺もそうだ。ベルクマン氏のせいで、てっきり寒い土地の生まれなのかと思ったが」
「個体差にも適用できるのか?」
二人が笑う。
「子供の頃から大きかったのか?」
「うむ」
「運動なんかはしていたのか?」
「遊び程度だ」
「俺もその程度だな。睡眠時間は?」
「平均的だろう」
「俺もそう変わらないだろうな。では、やはり食べ物の影響が大きいのだろう」
「ふむ」
「そこで聞いてみたいのだが、お前は子供の頃、何を食べていたのだ?」
「何と言われてもな」
「たとえば牛乳をたくさん飲んでいたとか、そういったこともないのか?」
「さほど飲んでいないな」
「特定の物を沢山食べていたということはないのだな?」
「そうだ」
「俺も偏った食生活ではなかったはずだ。単純に量の問題か? 食べる量は多い方だったのか?」
「人並だったと思う」
「では寧ろ俺の方が多いかも知れないな。今でも賄いの弁当はお前よりも一つ二つ多く食べているしな」
「多弁なだけにか」
二人が笑う。
「案外、その影響かもしれないな」
「と言うと?」
「つまり、俺は喋ることで熱量を消費してしまうのだろう。節約のためにサイズを維持したのではないかな」
「なるほど?」
「イメージとしても、大柄な人は無口で、小柄な人の方がお喋りではないか?」
「思い込みだろう」
「客観的なデータとして存在しないだろうか」
「基準が難しいだろうな」
「それもそうか。それにしても腹が減ったな。賄いは、いつも通り煮物弁当だな」
「うむ」
「なんでメニューに残してるんだろうな。地味すぎるし、大抵売れ行き最下位なのに。俺たちの名付け親が毎回頼むからか」
「だろうな」
そこに店の女将が現れた。二人に代わってカウンターに立つと、二人を睨みつけた。
「あんたらは、掃除」
二人は笑った。