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一条兼定なんて・・・(泣)  作者: レベル低下中
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二人の息子

 徳島から帰ってきて程なく、お秀がお産となった。


 もちろん、今の時代のように夫が妻に付き添うなんて習慣はないから、別室で待機である。

「いつもこればかりは緊張するぞよ。」

「御所様がお気を強く持っておられないと、秀も勇気が出ないものですよ。」


『中将は戦場でも固まっているじゃ無いか。』

『悪霊は黙っておれっ!』


「それでも、松がいてくれて良かったぞよ。そなただって臨月じゃというに。」

「私は五人目です。今更しくじったりしません。」

「やはり、そなたは麿には過ぎた嫁じゃ。」

「まあ!神懸かりの御所様にそう言っていただけるなんて、私は何と果報者なんでしょう。」


『のろけていないで、お秀の心配でもしたらどうだ?』

『しておるわい!いいから静かにするでおじゃる!』

 だって、相手してくれないと、私が退屈じゃないか・・・

 朝から始まったお産であったが、申の刻が訪れる頃には新たな命が産声を上げた。


「おおっ!生まれたようじゃな。」

「御所様、お喜び下さい。元気な男の子ですよ。」

「それはまこと目出度い。それで、お秀の様子はどうじゃ。」

「はい。お疲れのようですが、元気でございますよ。」

「これはこれは。今日は良き日かな。」

「そうでございますね。さあ、お秀を労わなくてはなりません。」

「そうじゃの。」


 兼定はピョンピョン跳ねながらお秀の元に行く。

 本当にコイツは素直でいい。


「お秀、でかしたぞ。よう頑張ったの。」

「御所様、ありがとうございます。男の子を授かりました。」

「うんうん。ようやった。ようやったぞ。」


『まるで初めての子が出来た時のようだな。』

『いつも同じぞよ。何人でも同じぞよ。』


「それで、名は何と・・・」

「うむ。幸寿丸じゃ。良い名でおじゃろう?」

「はい。とても立派な名を授けて下さり、ありがとうございます。」

「お秀に似て、見目麗しいのう。」

「嬉しいです・・・」

「よう乳を飲んでおる。とにかく元気に育ってくれれば、何も言うことはないぞよ。」

「父のように勇敢な子がいいです。」


『そりゃ、宮内少輔は知勇兼備の名将だったからな。』

『馬鹿を言うな。父とは麿のことじゃ。』

『中将が勇敢だったことなどあるまい。』

『またそんなことを言う。麿が父じゃ。』


「まあ御所様。いかがなされましたか?」

「いや、麿のように勇敢であって欲しいが、あまり戦場で無理して欲しゅうはないと思うたのじゃ。」

 上手いこと、自分を勇者にすり替えやがった・・・


 そして、僅か四日後、お松が産気づく。


「私の時も、こうして見守ってくれていたのですね。」

「不安なのはいつものことじゃが、それでも麿は二人を信頼しておるでの。」

「お松様は、お子を産むのも育てるのも名人でございます。」

「そうじゃの。そして、お秀もその域に達しつつあるのう。」

「ありがとうございます。とても嬉しゅう存じます。」

「無事、出てきてくれたようじゃな。」

 遠くから元気な泣き声が聞こえる。


「御所様、元気な男の子でございます。」

「そうかそうか。また一段と賑やかになるのう。」

「では御所様、参りましょう。」


「御所様、元気な男の子でございました。」

「ようやったの。志東と幸寿丸に弟ができたぞよ。」

「ありがとうございます。私も安堵いたしました。」

 さすがはベテラン、落ち着いたものだ。


「名はもう決めておる。松翁丸じゃ。いい名でおじゃろう?」

「まあ、松の字を入れて下さったのですか。それはとても嬉しいです。」

「皆が仲良く育つように、松もお秀も、よろしゅう頼むぞよ。」

「はい。お任せ下さい。」


『しかし、男の子二人というのも、いいものだな。』

『麿はどっちでも良かったのじゃが、お秀は気にしておった様子じゃったからのう。』

『同い年なら、同性同士がいいんじゃないか?』

『悪ガキになりそうじゃの。』

『そうだな。それに、妻二人が仲良くなるためにもいいことだ。あまり五月蠅く競わせず、お秀の気を楽にさせてやればいい。』


『悪霊のくせに、たまには良いこと言うのじゃのう・・・』

『基本、良いことしか言ってないだろう。』

『次は、女の子じゃな。何かお告げはあるか?』

『我はそんなお告げはせん。』


 幸せそうで、何よりだ・・・


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