状況の変化と次なる作戦
年が明けて程なく、月山富田城に籠城していた尼子氏が降伏し、毛利が出雲を征服した。
毛利は悲願を達成し、これから山陰を進軍するのか、北九州に矛先を向けるかが注目される。
また、年始めの評定に元親は来ることができなかったが、年末までに小豆島などを制圧し、土庄に新たな城を築き、江村親家を配置するそうだ。
そして、返す刀で塩飽諸島と真鍋島まで攻め込み、これを難なく占領したとのこと。
さすがに兵力が違いすぎたか。
この結果、瀬戸内東部の島嶼は長宗我部家の領分となり、塩飽衆と真鍋衆はそこに住みながらにして、一条水軍に編入される形となった。
瀬戸内海には、まだ日生衆が健在であるが、こちらはあまりに本州に近く、攻め取ったところで維持できないため、放置することとなった。
「以上のような状況にございますれば、御所様のご判断を仰ぎたく存じます。」
「まずは、宮内少輔殿の瀬戸内制圧は目出度いことよのう。これで、博多から堺まで、関所を通らずに行ける航路が確保された。後は、因島と日生がこれによって弱まれば狙い通りじゃ。」
「はい。すでに因島はかなり窮乏しておりますれば、近いうちに小早川に取り込まれるやも知れませぬな。」
「それならそれで良い。して、毛利は次、どこに向かうじゃろうのう。」
「はい。備中は毛利の支援を受けた三村が勢力を伸ばし、美作へも手を伸ばし始めております。」
「まだ東に進むのであろうのう。」
「はい。山陰の伯耆は、これといった勢力がございませんので、簡単に毛利の手に落ちると考えます。山陽は備前が主戦場となるでしょうが、浦上がどのような手腕を見せるかでしょうな。」
「赤松が味方するなら、浦上は親三好になるでおじゃるな。」
「そうなれば、毛利は反三好にならざるを得ません。」
「その線で、しばらくは毛利と仲良うせんとな。」
「九州はどう見ますか。」
「大友と毛利がこのまま和議を結んだままではいられまい。また一悶着起きような。」
「その時、当家はどうされますか。」
「何もせん。当家がせっかく口を利いてやった和議を反故にするのじゃ。知らぬフリをしておれば良い。」
「そう来ましたか。」
「当家の態度に双方が腹を立てたとしても、だからといって、あの二つが手を結んで当家を攻めるとはならんでおじゃる。」
「そうでございますな。むしろ、戦をしていない当家の方が、兵も物資も潤沢にあります。」
「そういうことじゃ。そう簡単に手出しはさせぬぞよ。」
「三好はいかがいたしましょう。」
「三人衆は元気にやっておるかのう。」
「はい。暮れに松永と三人衆は義絶し、双方睨み合っております。」
「悪と悪の戦いじゃのう。どちらも勢力は五分かのう。」
「そうですな。松永がどこと組むかでしょう。丹波か畠山か一向宗か。」
「そうよのう。もし、我らが本州に橋頭堡を築くなら、備前が良いか、播磨が良いか。」
「どちらも一長一短がございますな。」
「良い。宗珊、申してみよ。」
「現状では備前の方が与しやすい相手とは存じます。赤松もそれほど積極的に浦上の支援には回らないでしょうし、こちらは毛利と共闘することも可能です。しかし、毛利と陸で隣り合わせとなり申す。」
「播磨はどうじゃ。」
「こちらは、備前の浦上も大いに支援してくるでしょうし、三好もおりますので、苦労することでしょう。しかし、毛利や三村が美作方面に動いた時や、三好が松永と戦を始めた隙を突くなら、できないこともないでしょう。」
「それぞれに一長一短があるのう。さて、行くか、行くまいか・・・」
「ただ、行ける準備はしておくべきでしょう。」
『のうのう、また皆が戦をしたがっておるぞよ。』
『だからといって、当主が戦を止めるわけにはいかんだろう。問題を引き延ばすのだ。』
『どうやってじゃ。』
『戦をするのは今では無いだろ?』
『分かったぞよ・・・』
「そうじゃな。戦の準備は常にしておく必要があるの。では、間者からの報告を待つことにしようぞ。」
「はい。心得ましてございまする。」
今回の評定では、一旦様子見と相成った。
『やっぱり、戦はしないといけないのじゃろうか。』
『本家を怒らせないよう、家臣に鬱憤をためないようにだな。』
『両方は無理でおじゃる。』
『そうだな。しかし、播磨と備前を手に入れれば、かなり強いな。』
『それは間違いないぞよ。西国でも有数の豊かな地でおじゃる。』
『しかも、治めている大名があまり強くない。』
『でも、戦をしてまで欲しいとは思わぬぞよ。』
『だから様子見だ。』
兼定、大分倦んできている・・・




