視覚情報を作る
もう冬と言っても良い11月の始め、よりにもよって入野の浜にいる。
まあ、私は暑さ寒さは全く関係ないが・・・
そこで、何をしているかと言うと、四国の地図作成である。
本当に測量する訳では無い。
私の記憶を元に、「四国らしい絵」を描くのである。
そして、何故砂浜かというと、紙が勿体ないからである。
その代わり、浄書を行うため、右筆を連れてきている。
目的は国防である。
行基図はあるが、あんなものでは何の役にも立たないし、兼定も見たことないらしい。
とても貴重なものなのだろう。
『そうそう、弓なりに。ああ違う、やり過ぎだ。』
『大弓くらいかのう。』
『そう。だが、完全な半円ではないぞ。少し右肩上がりで弓なりに。』
記憶にはあっても、全く知らない相手に口で説明するのは難しい。
ということで、砂に線を描いては消す作業を繰り返している。
『そう、そこで曲線の真ん中よりやや右に、窪みを入れる。そこが浦戸湾だ。』
『こうかの?』
『う~ん、何か違うな。なかなか伝わらないものだな。』
『麿は腰が痛いぞよ。悪霊だってちょっとは手を動かせるのでおじゃろう?』
『そうだった。最近やってなかったから忘れてた。』
良いことを思い出し、結局は私が「なんちゃって四国」の絵を描き上げた。
ここで浄書を右筆に任せ、一旦休憩する。
『あれが四国の形なのでおじゃるか?』
『手書きなので多少、いびつにはなっているが、ほぼあの形だ。』
『そうなのか。しかし、地図とは何に使うものなのじゃ?』
『まだ、四国の輪郭を描いただけだが、これに九州や中国、畿内の輪郭をおおよそ入れ、瀬戸の島々を描けば、敵の侵攻してくる道筋が大体分かる。そして町、城、街道、山や川、国境線などを書き込むと、中村に居ながらにして、前線の戦況を掴むことができるようになる。』
『おお、それは便利じゃのう。』
『そろそろ模写が終わったようだぞ。次は九州の四国に面した所を描いてみるか。』
こうして、なんちゃって四国周辺図が出来上がる。
『日向から紀伊まで描けたぞよ。面白いものじゃのう。』
まあ、いつもの激務と違い、今日は半分子供のお遊びみたいなものだからなあ・・・
こうして、次に本州、九州の国名を砂に書き、堺、三原、山口、下関、府内と都市の場所を表記した。
さらに、四国内の町を示し、それ以外の場所にある主要な城は、地図表記でお馴染みの凸マークで示して再び右筆に模写させる。
『しかし、悪霊はまこと凄いのじゃのう。』
『この程度なら当然だぞ。日の本全体もおおよそ書けるが、四国でさえこれだ。疲れるから止めておこう。』
『そうじゃのう。麿も覚えきれぬし・・・』
そのくらい、覚えろよ!
『それにしても、中村は随分西にあるのじゃのう。』
『だから、松山に拠点を移そうとしている。』
『さて、次は街道だな。』
こうして、次々に必要な情報が入れられ、そこそこ役に立ちそうな視覚情報が手に入った。
そして後日、右筆が畳み四畳分ほどに拡大模写し、完成させた。
「これはまた、凄い物ができましたな。」
「日の本にこれほど詳しい地図は無いぞよ。」
筆で描かれた地図というのは、思った以上に違和感アリアリだが、それでもちゃんと四国している。
「これであれば、素早く作戦を立てられますな。」
『中将よ、赤とか青の墨は無いのか?』
『彩墨か?あるぞよ。』
『川は青とか山が多いところは緑とか入れると更に地形が分かりやすくなるぞ。』
『確かに良さそうじゃの。』
『それに、これをもう一つ作って、地形では無く、各直臣の領地とか郡ごとに色を分けると、租税の徴収にも使えないか?』
『そうよのう。悪霊にしては、善良なことを考えるのう。』
『言うほど善良か?』
『まあ良い。そういった物も作らせるぞよ。』
「まあ、麿の神懸かりはこんなもんでは無いぞよ。これはその一端を見せたに過ぎぬ。」
「素晴らしきお力と存じます。」
宗珊だけではない。文吏まで平伏している。
兼定より優秀なはずの人たちが・・・
『何か、失礼なことを想像してはおらぬか?』
『我には裏も表もない。常に正直だ。』
『正直に失礼じゃな。』
『何を訳の分からないことを言っているのだ。』
『まあ良い。皆が麿の虚構にひれ伏しておるわ。』
いいのか?それで・・・




