高知の城下
さて、秋が深まる頃、兼定は河内を訪れた。
これから、ここに城と町を建設するのである。
城は、現在の高知城がある大高坂山である。
この山は、かつて南朝が拠点としていた山であるが、河内の名のとおり、鏡川、久万川とその支流の江ノ口川、国分川と、多くの河川の河口付近にある低地であり、長宗我部元親も築城に失敗し、やむを得ず浦戸に居城を構えた。
そういった場所であり、いわば氾濫原の中にある小山である。
そして、土佐藩が約50年かけて市街地を完成させたが、その手間の大部分は干拓事業で間違いないだろう。
そんな場所を、四国を制覇したとはいえ、一条家の力で開発するのである。
「刑部(源康政)よ、町はどの辺りに作るのじゃ?」
「はい、今はほとんど湿地となっている山の東側と中心とした一帯でございます。」
「あれか・・・大丈夫なのでおじゃろうな・・・」
そりゃ、私でもそう思う。
「手筈はどうなのじゃ。」
「まずは、堤防から建設いたします。何せ毎年のように大水の出るところですので、これを抑えぬことには何もできませぬ。」
「それが鏡川の北と久万川の南か。」
「はい。国分川は後回しにしても、この二つはまずやるしかございません。」
「江ノ口はどうするのじゃ?」
「はい。御所様からの指示通り、城の外堀として整備いたしますが、松山から安太衆を呼んで、石垣を立てないといけません。」
「分かったぞよ。まあ、石と土砂だけはいくらでも有りそうじゃからのう。」
「はい。久万や筆山、近隣の城を壊しても良いとのことですので、堤防と城地の嵩上げについては問題無いかと。」
「町の方は・・・まだ分からぬのう。」
「はい。見当も付きません。」
そりゃそうだ。
「それで、町には何条か堀川を作るとか・・・」
「敵からの防御、排水、防火のために使うぞよ。」
「しかし、とんでもない普請でございます。」
「うむ。しかし、これが出来れば中村以上の町になるぞよ。」
「それは間違いございません。」
「まあ、干拓は追々で構わぬし、何期かに分けて行うつもりじゃ。まずは堤防、そして城地割と道、堀川の配置、最後に本格的な築城じゃの。」
「畏まりました。既存の堤防もありますので、可能な限り早く仕上げたいと思います。」
「頼んだぞよ。」
兼定は山に登る。
「こうして見ると、御所の裏山とさほど変わらぬな。」
「はい。しかし、城の西側であれば、もう少し土地が高いのですが、何故に東側を開発するのでしょうか。」
「もちろん、西側も町にするぞよ。しかしのう、西は本宮から鏡川沿いに堤防を築けば、かなり防御は堅くなる。だから、東側の守りを固める意味でも、そちらに大手と堀川を配置したいのじゃ。」
「なるほど。」
「この城の外堀は江ノ口川、久万川、鏡川じゃ。そして東は海。その全てを堤防で囲むのじゃ。」
「本当に、大きな中村ですな。」
「倍や三倍では無いと思うぞよ。」
「ということは、葛島辺りまでは干拓するということですな。」
「とは言え、可能じゃと神は言うておる。時間はかかるがの。」
『のうのう、これ、徳島でもやると言うておったが、大丈夫なのじゃろうのう。』
『徳島はもっと大変だぞ。吉野川の河口を付け替えるからな。』
『まさに、神になった気分じゃぞ。』
『言われてみればそうだな。しかし、勝瑞とは比べものにならないくらい、こちらも大きな町ができるぞ。』
『麿がどえらい名君になってしまうぞよ。』
『そうだな。阿波と土佐の歴史に燦然と輝くな。』
『そう言えば、この城の縄張りはどうなるのじゃ?』
『本郭と二ノ郭は同じ高さ、東に石垣を積んで三ノ郭、ここに御殿を作る。砲台は四方に配置し、内堀は東、南の二方だ。その他に蔵や馬場を作る。』
『それは大きな城じゃのう。』
『御所の裏山も似たような大きさになっているだろう。水堀は無いが。』
『そうよのう。さすがは四国の主じゃ。やっと実感が湧いてきたぞよ。』
『そうだろう。天下人に見せても恥ずかしくないものが必要だ。今の御所は宍喰屋の店より小さいからな。』
『それは、言わない約束でおじゃる。』
『まあ、中将が生きているうちに、完成するかどうかだな。』
『麿はまだ若いぞよ。』
『そのくらい大きな普請だ。金もかかる。』
『楽しみにしておるぞよ・・・』




