為松山から見る中村の町
御所の裏手を城として本格的に整備していたが、やっと縄張りと整地が完成した。
主要な建物や石垣、後川から水を引く予定の内堀はまだであるが、何となく城の全貌は覗える。
また、町に架かる橋を落とせば、周囲の堤防と相まって、要塞としてそこそこ機能するはずだ。
そして、今日はお秀とお峰を連れて、本丸に来た。
「岡豊の城に似ておりますね。」
「そうよの。山の高さも、大きさもよく似ておるの。ただし、ここに建てるものは大分違うから、きっとお秀も驚くことになるぞよ。」
「四国の主に相応しい城ができるのですね。」
「ああそうじゃ。それと、河内、松山、徳島に造っている城はさらに大きいぞよ。」
「ここよりもですか?」
「ああ、そしてここは、麿が隠居した時に住む城じゃ。」
「では、本拠を移すと?」
「そうじゃ。ここは余りにも西に外れておる。四国を治めるなら、本当は香川郡辺りが一番良かったのじゃが、そなたの兄にやってしもうたからの。松山辺りがいいと思うておる。」
「そうですか。それにしても、一番重要な場所を長宗我部に、ですか・・・」
「まあ、これまでの働きを考えれば、過大ではないでおじゃろう。それに、そなたの兄上も岡豊を手放した訳じゃしのう。」
「それでも、今までとは比べものにならないくらいの貫高になると兄も申しておりました。本当にありがとうございます。」
「お秀が喜んでくれるなら。頑張った甲斐もあったというものじゃ。」
「私は、果報者にございます。」
「お秀よ。それは普通、麿が言うべきじゃないかのう。」
「そのようなことはございません。でも、そうおっしゃっていただいて、とても嬉しゅうございます。」
「麿もよ。それに、そなたが笑っていると、お峰も機嫌が良いのじゃ。」
「もうすぐよちよち歩くのでしょうね。」
「そなたに似て、とても元気ゆえ、すぐに走り回るのじゃろうのう。」
兼定は、眼下に見える中村の町と、遠く南に見える四万十川を眺める。
「賑やかで良い町ですね。」
「そうよの。今のところは土佐で一番の町じゃ。」
「今のところ、ですか?」
「少なくとも、河内はもっと大きくするぞよ。そして、板島と宿毛もここに負けないくらいの町を造る。伊予は松山、阿波は徳島に大きな町を造るぞよ。」
「それは夢のようですね。」
「子が大きくなれば旅もできよう。そなたにも見せてやりたいしのう。」
「楽しみでございます。」
「この子はまだ、父と母がこんなことを言っておるのが、分からんであろうがのう。」
「でも、楽しげな雰囲気は伝わっていると思います。」
「それは良いことよのう。家の中がギスギスしておると、子の成長にも悪いからのう。」
「はい。それで、そろそろその、二人目、とか・・・」
「そうじゃのう。もう少しお秀がゆっくり身体を休めてからと思うておったのじゃが。」
「私は大丈夫でございます。お松様も、万千代様をお生みになってすぐに、お雅様を身籠もったと聞きましたので。」
「そなたはお松より大分若いからのう。そんなに焦らずとも良いのじゃが、すぐに欲しいとなれば、麿も頑張るぞよ。」
「はい。ありがとうございます。」
雲の間から太陽が出て、初夏の日差しが降り注ぎ、眼下の町がさっと明るくなる。
「おや?蝉が鳴き始めたのう。夏本番でおじゃるか?」
「はい。秀も夏は一番好きでございます。」
「そうか。活発な秀には夏がよく似合うのう。暑くなるからそろそろ御所に戻ろうかの。」
「まあ、御所様に抱っこなんて、峰が羨ましいですね。」
兼定は峰を抱きかかえて山を下りる。
家族と過ごす、初夏の一日・・・




