家臣を躾ける
当たり前の話だが、今は下克上の時代である。
みんながお山の大将で、自分ファーストの世の中である。
コイツらは、いとも簡単に主人を裏切るが、これは義理や情けが無い訳では無く、自分がトップだと思っているから、トップの判断をしているだけである。
所詮、中間管理職のくせに・・・
これを矯正するために、織田家も徳川幕府も腐心したが、当家もこれをやらなければならない。
ということで、一条掟書の改訂だ。
内容は以下のとおりとした。
一 当家の全ての武士は、一条家臣団として、当主の意向に背くことなかれ。
二 陪臣は同じく主の意向に背く事なかれ。
三 税率は五割を上限とし、そのうち一割を上納するものとする。
四 領地の境界に関する揉め事は、全て一条家当主が裁定を下す。
五 家臣同士の私闘は、これを禁ず。
六 四国内の法は一条家当主のみが定める。
七 罪人は、直臣以上は一条家当主が裁判し、それ以下は領主が裁判する。
八 他国との揉め事は全て一条家当主が対処する。
九 親を敬い、子を慈しめ。領民も同じく当家から預かったものとして扱え。
十 戦の兵数は、一条家当主から各城主に割り当てる。
もちろん、これ以外に分国法と言われるものは、他家並に一応の定めがある。
掟書はあくまでスローガンであるが、家臣にとっては憲法のようなものである。
「前に定めたものと、随分言い方が変わりましたな。」
「うむ。心得から強制になったのう。」
「皆が反発しなければ良いのですが。」
「今の当主には、今までと何も変わらぬと言っておきながら、その子息には徹底指導する。どうせ、長い時間とある程度の見せしめが無いと、定着せぬぞよ。」
「さすが、いつもながらの深慮遠謀にございまするな。しかし、十箇条とは、いささか少ないのではないでしょうか。」
「足りない分は、法で補うぞよ。こういったものは切りの良い数字が良いのでおじゃる。」
「なるほど。稚児でも覚えられるようにですな。」
「さて、落ち着いた頃に、直臣を集めて訓示しようかの。」
「それがよろしゅうございます。」
そして、恒例の歌会に併せて直臣たちを呼び出す。
「これから、四国は復興し、発展する。そして戦の世では無く、領地を豊かにすることを競う世の中になる。この掟書は、こういった新しい時代に必要になるものじゃ。必ず守るのじゃぞ。」
「確かに、これが正しい事は分かります。しかし、・・・」
「どこか不満があるかの?年貢の率も常識の範疇じゃぞ。」
「そこは問題ありません。多くの領地は四割しか取っておりませんので。」
「上納の方かの?」
「それは・・・安いに越したことはございませんが・・・」
「多い家はもっと取っておるじゃろう。むしろ、これ以下のところは無かろう。」
「我々は法を定めてはいけないのでしょうか。」
「提案があれば、評定で諮るぞよ。むしろ、良いことなら四国全土に適用するべきじゃし、法を定めずともできることはあろう。」
「・・・・」
そう、あまり議論は起きない。
一条家の権威が最高潮に達していることもあるし、建前上、反対しづらい内容だということもあるだろう。
取りあえず、飲ませてしまえば、後は時間が解決してくれる。
結局、誰も反対できないまま、掟書が施行される。
「皆良いか。法は作るより守ることが肝要じゃ。文言なら誰でも覚えられるが、大事な事は、これを破るとどうなるかと言うことじゃ。ゆめ忘れることなく、家臣にも徹底させよ。良いな。」
「はっ!」
『これで、平穏な暮らしに一歩前進したのう。』
『当主が何を考えているかを明示して、これを徹底させるという強い意志を見せることが重要だからな。』
『まあ、今日集まった直臣のほとんどは、それほど懸念しなくても良い相手だとは思うがのう。』
『そうだな。いざという時に従うか裏切るかは別にして、謀反を企むような輩は見当たらんな。』
『そうよの。香川は怪しいが、隣が弥三郎で大丈夫かのう。』
『なに、香川が裏切るなら、弥三郎に切り取り放題と命じれば、喜んで協力するさ。』
『言われてみれば、そうじゃのう。あれはそういう男じゃ。』
『とにかく、一条が揺らがなければ、家臣も揺らがぬ。』
『三好のようにはなりたくないからのう。』
『ああ、権力争いが全て、という風になってしまうと、国は荒れるし収拾も付かなくなり、やがて淘汰される。』
『そうよの。権力では民の腹は満たされぬ。』
そこが分かっていれば大丈夫だ。




