長宗我部国親
さて今回、予想以上に大勝した我が軍は、10月26日に久万城に入り、ここまで進軍してきた長宗我部軍の総大将と会談する。
「宮内少輔殿、よくぞ参ったの。」
「これは一条の御所様、お初にお目にかかります。長宗我部弥三郎にございます。」
うん?弥三郎って元親の名前じゃなかったの?もしかして二代目弥三郎?
「此度の出兵、まこと大儀であった。お陰で当主不在のどさくさに紛れて我が領地を犯した本山一族を追い払うことができたぞよ。」
「誠に喜ばしいことと存じます。それがしも、父の仇でございますので、本山を滅ぼし、一族の無念を晴らすことは宿願でございます。此度はまこと溜飲が下がる思いでございました。」
「うむ。麿も一条の名を恐れることなく、この土佐に無用な揉め事をもたらす本山は苦々しく思うておったところよ。」
「それで御所様。これからいかがなされるおつもりなのでしょうか。」
「うむ。一条としては当初の目的を達成しておる。宮内少輔が本山を攻めるのであれば、止めはせぬぞ。」
「それはありがたき申し出。できれば御所様の軍勢にも助力いただきたいのです。」
「そうよのう。それでは千ほど兵を貸そう。」
「それはかたじけのうございます。やはり一条の御所様に頼って良かったと思いまする。」
良く言うよ、このタヌキ親父・・・
「本山方面は切り取っても良いが、ここより西及び安芸の領地に手を出してはならぬぞ。」
「御意にございます。」
「では、宮内少輔も急ぎの出陣でお疲れであろう。宴の準備をしておる。今日のところはごゆるりとされるが良いぞ。」
「はっ、かたじけのうございます。」
『のうのう、これで良かったかのう・・・』
『中々上手くやったと思うぞ。ただ相手は一流の武将だ。くれぐれも油断してボロを出さんようにな。』
『出そうにもボロなどないぞよ。』
ボロボロだろ。
『まあ、それはともかく、飲み過ぎないことだ。』
さて、宴となる。
「それで御所様、此度の戦、まことに鮮やかな手並みでございました。」
『全て宗珊の立てた策だということにするのだ。』
『何故じゃ。せっかく麿の力を自慢できるというに・・・』
『相手に手の内を晒してやる必要は無い。』
『でも、でものう・・・』
『相手が一条家に恩があると言っても油断するなと言っただろ。』
『分かったでおじゃる。』
「此度の戦、宗珊の見事な采配によるものよ。」
「そうでございますか。さすがは音に聞こえた名将にございます。」
「いえ、我が御所様の策は驚きのものでございました。宮内少輔殿、我が御所様は神懸かっておりまする。土佐の中には敵う者なしと考えて間違いはございませぬぞ。」
『おい悪霊よ。宗珊がバラしてしまっておるが良いのか?』
『他人が勝手に持ち上げてくれるのは良いことだ。このまま宗珊に言わせておけばいい。』
「確かに、お若いにも拘わらず、初陣で先陣を切ったとか。我が子はまだ初陣も果たしておりませぬ。全くお恥ずかしいことです。」
まあ、元親が初陣を飾るはずだった長浜の城はもう、当方に降ったからな。
「しかし、宮内少輔のご子息もなかなかの偉丈夫と聞き及んでおりまするぞ。」
「いえ、御所様にはとても及びませぬ。」
「そうかの?麿には能ある鷹が爪を隠しておるように見えるぞよ。まるで父のように。」
一瞬、国親の目が鋭く光ったように見えた。
「それは、お褒め頂き光栄に存じます。では、夜も更けましたので、これにて失礼仕ります。」
こうして国親は陣に帰っていった。
『のうのう悪霊よ。あの最後の目、凄かったのう。』
『油断ならん御仁であったな。』
『あれは麿でも分かったぞよ。あれは隙を見せたら噛みつく目でおじゃる。』
『一条家が上り坂にいるうちは大丈夫だが、将来は分からん。』
『しかし、嫡男の話はとんと聞かぬが、本当に凄いのか?』
『ああ、父に負けず劣らずと言ったところだ。それだけではない。二人の弟も出色の出来だ。一人は最近、香宗我部の養子になったそうだが。』
「では御所様、本日はお疲れでございましょう。早めにお休みくだされ。」
「うむ。援軍の人選については、宗珊に任せる。」
「御意。」
こうして土佐郡の中央部から本山家の勢力を一掃した兼定は、11月22日、中村に帰還する。