毛利から、面倒くさい話しが来る
永禄8年(1565)4月
すっかり春も本番どころか、初夏を思わせる日が増えたある日、毛利家から浦兵部が使いとして来訪した。
ちょっと、嫌な予感・・・
「先般は淡路、阿波、讃岐の三国平定、まことにおめでとうございます。我が主君も大変目出度いことと、大層お喜びでございます。」
「うむ。遠路大儀でおじゃったな。麿もこうして毛利の者と会うことが出来、嬉しく思うぞよ。」
「これはこれは勿体なきお言葉、痛み入りまする。」
「して、戦勝祝いの他にご用の向きでもおじゃるのかのう?」
「はい。此度は、一条家と我が毛利の誼を更に深めることが、互いの利益に適うということで、我が主陸奥守の次女、律姫様と婚儀を結ぶというのはいかがかと思いまして、まかり越したものでございまする。」
参ったな。最悪では無いが、それに近い・・・
『どうなのじゃ?受けた方が良いのか?』
『受けたくないな。ただ、断るのも勇気のいる相手だな。』
『ならば、どう断るのがよいのじゃ?』
『取りあえず、今この場では返答できんからと、回答を引き延ばせろ。』
『お任せあれでおじゃる。』
「うむ。それは結構な話でおじゃるが、何分、当家も阿波と讃岐の面倒を見る中で、そういったことを考えていく必要がおじゃる。これがなかなか多くの者が絡む繊細なことでの。麿といえど、そう簡単に答えが出る話ではないぞよ。ゆえに、少し時間をいただけるかの?」
「即答では無いのでございますか。」
「麿のことじゃが、何でも麿が決められる訳ではおじゃらぬぞ。」
「畏まりました。」
「まあ、それまで中村でゆるりとされるが良かろうて。」
こうして、乃美宗勝は中村に滞在することとなり、その間は、羽生監物が接待役を務めることになった。
『しかし、どうしようかのう・・・』
『何だか、少将も乗り気では無いようだな。』
『だって、陸奥守の娘って、麿の倍くらい年増ではないのか?』
『いや、側室の子なら、万千代と似た歳の子もいるはずだぞ。』
『そんなにお盛んなのか?』
『そのくらいで無ければ、あの歳まで戦場に立つなんてできないだろう。』
『つくづく凄い御仁じゃの。それで、どうするのじゃ?』
『何とか言い訳して断ろう。確かに、短期的に考えれば良い話だが、織田と毛利が対立した時に足枷になる。』
『しかし、断れば角が立つぞよ。』
『即答しなかった時点で、少しは角が立っただろう。』
『そうよの。浦殿も意外そうな顔をしておったわのう。しかし、何で今頃になって縁談など持ちかけて来たのじゃ?』
『それは、今が当家にとって最も断りにくい時期だと判断したからだろう。相手が最も嫌な時に嫌な策を仕掛ける。基本だ。』
『嫌らしいのう。確かに今が一番嫌じゃのう。』
『逆に、四国が落ち着いたら、最早、毛利との盟約は不要になる。』
『しかし、盟約を反故にする考えは無いぞ。』
『向こうはそう思っていないということだ。そりゃあ、疑われても仕方がないくらい、両家の関係は希薄だ。』
『宗珊に相談してみようかのう。』
「そうですな。毛利殿と姻戚関係になることを、大友殿は望まないでしょうな。」
「そういう見方もあるのじゃのう。」
「確かに、大友殿も今は毛利と戦いたくはないでしょうが、だからといって、当家が毛利寄りになることを望むとは思えないという意味でございます。」
「では、どのような話の持って行き方をすれば良いのじゃ?」
「やはり、今はお方様もお秀様もお若いので、三人目はまだ早い。ということと、正室はお松様で決まっていると言えば、毛利は引き下がらずにおれないでしょう。」
「まあ、どう考えても毛利は宇都宮や長宗我部より格上じゃからのう。」
「そして、これは家中で決めた、ということにすれば、浦殿もそこまで強硬に押しては来ないだろうと思います。」
「分かった。その線で話をしてみるぞよ・・・」
使者はかなり食い下がったが、最後は何とか不承不承という感じで帰ってくれた。
あの様子からするに、恐らく受けずに正解だったのだろうと思う。
でも、三人目を娶るとなると、どこの家がいいんだろうと考えてしまう。
今の一条家に政略結婚しなければいけない理由など無いが、これも政治的カードである。
そしていずれは雅たち三人の娘もカードになる。
そういったことは少しづつ考えて行くことにしよう。




