織田弾正、再び
2月2日、兼定一行は尾張に到着する。
今回は事前に早馬を出していたので、大手門前に家中の者がずらりと並んでいた。
「これは左近殿、久しいな。遠路遙々の来訪、歓迎するぞ。」
「これはご丁寧かつ熱烈な歓迎、嬉しく思うぞよ。弾正殿も健勝そうで、何よりじゃ。」
「さあさあ、疲れたであろう。中でゆるりと休まれるがよい。」
こうして見ると、彼も言うほど破天荒には見えない。
そして、城内の庭園で茶をいただきながら歓談する。
「尾張もなかなか大変そうでござるな。」
「ええ、やっと犬山以外の邪魔者を平らげたところで、美濃まではなかなか全軍で攻められない状況にありましてな。何とももどかしく思っているところだ。」
「まあ、最初は大変なれど、結果は織田方の勝利と決まった定めよ。」
「左近殿には先が見えておるのですな。」
「すでに妹君と浅井の婚儀もお考えであろう?」
「・・・よく、ご存じで。」
「松平とも正式な盟約を結ぶのであろう?」
「まこと、左近殿の慧眼には驚かされるばかりですな。」
「それらは全て吉と出ておる。これから織田家は急速に勢力を拡大する。」
「左近殿が言われると、本当にそうなってしまうように思えるから不思議なものよ。」
「犬山城の十郎左衛門殿(織田信清)も結果が見えておるのじゃから、早々に兵を収めれば良いものをのう。」
「残念ながら、あの者は左近殿に遠く及ばぬうつけでございますれば、それは叶わぬかと。」
「弾正殿。それがしに世辞は不要ぞ。我らは忌憚なく話せる間柄ゆえ。」
「そうでありましたな。さすがは左近殿。」
「ところで、一条家は是非とも織田家と誼を結びたいと考えておるのじゃが、どうかのう。」
「大変有り難き話と考え、徳はどうかと思いましてな。」
「万千代は去る12月で五歳になったのじゃ。」
「それなら、徳も11月に五歳を迎えましたぞ。」
「それは良い塩梅よのう。しかしそれがし抜かったわ。丁度都の本家に修養のために預けたが、ここに連れてくれば良かったのう。」
「それはまことに残念至極ですな。」
「しかしまあ、弾正殿が将軍様を奉じて上洛するなら、問題は無いかの。」
「それが叶うように一所懸命励もうぞ。」
「十年と経たずにそうなっておるはずじゃ。当家もそれまでには淡路まで来ておるでの。会うに容易くなっておるのではないかの。」
「その日を迎えるのが楽しみですなあ。」
「それがしもじゃ。」
「しかし、まだ当家がそれほどの大身になるとは信じられんが、左近殿は何ゆえ、そう思われるか。」
「尾張が落ち着けば、美濃を囲むように浅井と盟友を結び、北伊勢を攻め取る。そして、斉藤新九郎が病に倒れれば、一気に三方から攻めて終わりよ。その後、北畠を降伏させ、六角を蹴散らし、あっという間に京に辿りつくと思うぞよ。その中で、一番の難関が美濃じゃ。これはさすがに時間を要する。」
「なるほど。しかし、将軍様を当家が奉じるというのは、いささか難しいのでは?」
「今の上様ではないぞ。」
「確か、覚慶様とおしゃっておりましたな。」
「そうじゃ。三好の内部抗争に巻き込まれる形で都から落ち延びる。最初は近江、次いで越前に落ちるが、美濃を平らげた織田家を頼ってくる。何せ、朝倉は動かぬからのう。」
「確かに、今の朝倉の当主はあまり外に打って出て来ませんな。」
「言ったことは必ず起きることじゃ。何も心配せずとも良いし、家中の皆々様も御大将に付いていけば成功間違いなしよ。」
「それで左近殿、徳の輿入りについては、いつまでに返答すれば良いのであろうか。」
「互いの領地が隣り合わせたら、それは運命じゃと思うぞ。」
「なるほど。では、互いの再会を願って。」
「それがしも誓うぞ。」
こうして、おだてまくって何か、良い感じに会見を終えることができた。
『どの世界にも、お調子者はおるのじゃのう。』
『少将ほどの者は、あまりいないと思うが。』
『しかし、弾正殿も相当であるぞ?』
『まあ、褒められて嬉しくないはずは無いからな。』
『これから、悪霊の言ったとおりになるのであれば、一条も安泰なのじゃがの?』
大丈夫だ。本来、このゲームは一度として史実通りの展開にならないものだが、今回は一条家がちょっかいを出さない部分については、ほぼ史実準拠だ。
『まあ、楽しみにしておるがいいぞ。』
『全く楽しみでは無い。むしろ怖いぞよ・・・』
この後、当家からは砥部焼、織田家からは瀬戸の茶碗を交換し、宴は大いに盛り上がった。
そして二週間ほど滞在し、熱田神宮や萬松寺などの名所巡りのほか、歌会や茶会まで開いてもい、4月2日に中村に帰還した。




