伴天連の教え
耶蘇教宿毛教会ができたということで、視察してみる。
まだ内装の一部は南蛮から船で運んでいるということで、全ての工事が終わっている訳では無いが、聖堂で初めてのミサが行われるということなのだ。
建物はレンガ造りで基本は二階建て程度であるが、鐘を吊した部分は一階分ほど高い。
まあ、私たちなら見慣れたチャペル風のものだ。
『しかし、これが南蛮の寺なのか?』
『間違いないぞ。』
『石でできておるのか?』
『いや、土を焼いたものだ。しかし、こんな田舎によく作れたな。』
『お主、入っても良いのか?』
『前にも言ったが、別に神同士は仲が悪い訳では無いぞ。』
『いや、そうではなく、祓われたりしないのでおじゃるか?』
『だから、悪霊では無いとあれほど・・・』
そんなことを言っている間にミサが始まる。
やっている意味も、壇上の司祭?司教?の言葉も分からず、ただ眺めていただけであったが、教会を訪れた二十名ほどの者達が祈りを捧げる様は、何とも厳かであった。
そして、バテレンの言葉を一人が訳して参集した人たちに伝える。
まあ、私はもちろん、どこの方言か分からない言葉で説法されても、みんなよく分かってないだろうが・・・
「ご領主様、本日はお越し頂き、誠に光栄にございます。」
「布教は進んでおるかの?」
「はい、まだ今日集まった者が全てでありますが、これから有り難い神の教えをこの土佐の地に広めて参りたいと考えております。」
「よく励むがよいぞ。それと、寺や神社の者といらぬ軋轢を生じることのないよう、仲良くやれよ。」
「はい。くれぐれもご領主様のお手を煩わせることの無いよう、慎重にやってまいります。」
兼定もよほど退屈だったらしく、司祭を名乗る者と短く言葉を交わした後は、いそいそと建物を出る。
『坊主の説教も伴天連の説法も、退屈なのはどこも同じなのじゃな。』
『我もそう思うぞ。』
『そなた、それでも一応、神を騙っておるのじゃろう?』
『日の本の神はのたまわったりしない。』
『神主がかしこみかしこみ申し上げておるだけじゃからのう。』
『見事なまでに困った時しか頼みに来んからな。』
『次からは供え物を弾むゆえ、許してたもれ。』
『我に供え物は不要だ。我以外の神に捧げてやれ。』
『そなたは線香の方がいいのか?』
『神は成仏せんぞ。』
『仕方のないヤツじゃ。まあよい。それで、麿は耶蘇とどう付き合ったら良いのじゃ?』
『前にも言ったが、付かず離れずだ。南蛮との交易に布教は必須だし、一向宗などが五月蠅ければ、耶蘇を使って牽制してやれば良い。ただ、神仏に帰依している家臣や兵は多い。家中の混乱を招かぬよう、積極的に関わることは止めておけ。』
『分かったぞよ。しかし、神が一人増えただけで、そんなに混乱するものなのかのう。』
『耶蘇の教えは、他国の神を邪神と教える。』
『神に良いも悪いもあるものか。』
『だが、南蛮人はそうは考えぬ。それに、領民を攫い、奴隷にする不届きな輩もいる。』
『帝の臣民を謂われなく攫うとは、これまた不敬極まりないのう。』
『だから、奴らのすることは注意深く監視し、何かあれば兵を使うことを躊躇するなよ。』
『えらく物騒な者を入れたのじゃのう。』
『だが、大筒も鉄砲も彼らによってもたらされた物だ。』
『要は使いようという訳じゃな。』
『南蛮人であれ、他の武家であれ、純粋な善意で動いている者などいないと考えた方がいい。その中でどう取捨選択するかが重要なのだ。』
『説法みたいな事を言うのう。』
『それよりは遙かに実践的で生臭いものだがな。』
『やはり、線香焚くか?』
『要らん。』
『悪霊は本当にただ働きが好きなのじゃな。今まで何も欲しがったことがないでおじゃる。』
『そう言えばそうだが、実際欲しい物など思い付かぬ。』
ゲームしてるだけの夢だし、考えたことも無かった。
『良い女子でも紹介すれば喜ぶのか?』
『何故、神がそんな下世話なことで喜ぶと思ったのだ?』
『麿は悪霊のこと、あんまりよく知らぬでおじゃるからのう。』
『そう言えば、長い付き合いの割にはそうだな。』
『話してはくれんのか?』
『この時代の者が聞いて理解できる内容ではないからな。もし、話して分かってもらえそうなことがあれば話してもいいが、しばし待て。』
『分かった。神の啓示とやらを期待しておるぞよ。』
まあ、思い付かないんだけど・・・




