家族もまとまる
さて、翌朝の朝餉の時間。お松が再び席を譲ってくれたので、兼定の隣はお秀だ。
何かもう、みんなニッコニコである。
「おおお松、済まぬのう・・・」
「はい。目出度き日ですので、お気遣いなく。」
本当にお松は良くできた人だと思う。
「ととさま~、おひでさまと仲良し?」
「うん?お雅は気になるでおじゃるか?」
「うん。きになる~。」
まあ、これだけベッタリデレていれば、一目瞭然だが・・・
「ならば、お雅には内緒じゃの。」
「では、万千代にはこっそりお教えください。」
「おお?万千代も知りたいのか。」
「若様!お雅様!妾はいつも通りでございます。勘違いをしてはなりませんからね。」
いつの間にか、ツンとデレの出現パターンが逆転してる・・・
「まあお秀よ。稚児相手に本気を出してはならぬぞよ。」
「も、申し訳ございません。御所様・・・」
顔が真っ赤でなかなか可愛い。
「おひで、おかおまっか。」
そして子供は必ずツッコむ。彼女はすっかり俯いてしまう・・・
「これお雅。お秀が困っておいでです。早くまんまを食べて、お着替えです。」
「はい。かかさま。」
やはり、この家をまとめ上げるのはお松しかいない。
残念ながら、兼定は処理能力皆無なのである。
これは統率の低さが影響しているのだろうか。
ともかく、当事者二人にとっては何とも気恥ずかしかったであろう朝食を終え、兼定は解放される。
『しかし、何とも良いものよのう。』
『やっと家庭を持つ幸せが分かったか?』
『それは前から分かっておったぞよ。そうではなく、久しぶりに良い気分というか、気持ちが高まりつつも夢見心地というか、そんな気持ちであったぞ。』
『今の気持ちを歌に詠めば、いいものができるのではないか?』
『そうよ、そうよの。今日は歌を詠む。仕事は明日に繰り延べじゃ。』
『まあ、今日一日くらい、宗珊も許してくれるだろう。』
『そうよの。ヤツも相当心配しておったからのう。良い報告ができるぞよ。』
『たまには家族と一緒にいてやるがいい。それと、これはお松の手柄と言っても良いのだから、ちゃんと感謝の気持ちを伝えるのだ。』
『お主、悪霊のクセに、なかなか良いことを言うのう。』
『少将は忘れているようだが、我は戦神ぞ。勝つためには人心掌握に長けている必要がある。』
『そうかのう・・・夕べはかなり慌てておったではないか~?』
『それは少将の対応があまり酷くて、劣勢を挽回するのが大変だったからだ。』
『まあ、今日は麿も機嫌が良い。そういうことにしておいてやろう。』
『調子に乗りおって・・・』
『では、朝の内に良い歌を詠おうかの。』
『昼からはお松と町に出かけるといい。』
『そうよの。礼も兼ねてのう。』
『そういうことだ。』
昼からお松と二人で町に出る。
松も懐妊以来、外に出る機会が全く無かったので良い気分転換になるのではないだろうか。
まあ、移動は牛車だが。
「久しぶりの町も良いものですね。でも、御所様は毎日お忙しいのに、よろしかったのでしょうか。」
「お松のためなら、いつでもいくらでも時間を作るぞよ。」
「では、小間物屋へ行きたいです。」
「何でも好きな物を選ぶか良いぞ。」
「では、私はこの髪飾りを所望いたします。」
「分かったぞよ。では麿はこの櫛じゃな。」
「お秀によく似合うと思います。」
「違うぞ。これは麿からそなたへじゃ。」
「まあ。それは嬉しゅうございます。ありがとうございます。それと御所様、例の万千代への品、扇などいかがでしょう。」
「良いのう。では、それなどどうじゃ?男の子は多少丈夫な物でないとすぐ壊すゆえ、これなら長く使えると思うが。」
「そうですわねえ・・・では、扇骨はそれにして、紙は私たちの歌での書いて渡せばいかがでしょう。」
「それはまこと良い考えじゃ。絵師に頼んで彩りも加えるでおじゃる。」
「でも、お雅たちも何か欲しがりますわね。」
「では、皆の分も買うかの。」
結局、お秀を含めて全員分の小物を買った。




