三好に対して差を付ける
一条家の次の目標は、もちろん三好である。
しかし、三好の領地は全体的に豊かであり、国力・兵力ともに三好有利であると見て間違いない。
三好の弱点は、家臣団の結束の弱さと、連年続く畿内での消耗戦の影響であるが、それでも油断できる相手ではない。
讃岐・阿波方面に攻め込むためのルートはいくつかあるが、土佐から阿波に抜ける道はどれも狭く、互いに攻めづらい。よって、自然と伊予から讃岐に抜ける街道が主戦場となる。
裏を搔いて土佐から阿波へ侵攻するという手も無くは無いが、こちらの物資輸送体制に大きな不安を残すし、指示伝達に多大な時間と労力を要することから、やはり、土佐側は陽動が妥当だろう。
予想では、そろそろ三好長慶が亡くなり、跡目争いが激化すると予想するので、戦を仕掛けるなら来年だ。そして、その間にやるべきことは沢山ある。
まずは兵力増強である。
元々土佐兵は「死生知らず」と言われるどう猛さを持ち、強いのだろうが、いかんせん数が足りない。
それに、三割近くは安芸と長宗我部の部隊であり、こちらは大まかな指示しかできない。
このため、一領具足の制度を導入して増強を図っているが、肝心の甲冑と槍の調達にはかなりの資金が必要で、整備に時間を要している。
城郭の整備も進めている。
これは、三好攻めというよりは、三好攻めの最中に毛利からちょっかいを出されないための策である。
ということで、最前線の能島城近辺の城を整備している。具体的には伯方島の金ケ崎城、伯方城、大三島の甘崎城、大島の月頂山、立山の二城、高縄半島先端の大角鼻一帯の城塞化である。
また、松山の勝山城も取りあえずは完成した。
まだ、現在の松山城のような白壁や鉄城門、石垣を備えた近代的な城ではないが、これも長い時間を掛けて整備していけば良い。
この地を守る城代も、平時は湯築に詰め、籠城時には勝山に移る考えだ。
そして、中村御所の裏山も城として整備を始めた。
これまでも詰めの城としての機能はあったが、これを大々的に整備する。
現在、郷土資料館として模擬天守が建っている場所だ。
鉄砲も既に千五百近くを保有し、大砲も年内には実用化を終えたい。
馬の改良は、全くといって進まないので、東国から買い付けて繁殖させることにした。
こうした積み重ねにより、軍事的にはかなり強化されつつある。
『もう滅亡の憂き目には遭わないのではないか?』
『全盛期の尼子はもっと勢いがあったはずだ。』
『ならばまだまだかのう。』
『その通りだ。そして、この強力な兵を支えるのが兵糧と資金だ。』
『別子の銅もそろそろ出回るぞ?』
『今年の収穫が例年通りなら、兵糧の心配も必要無くなる。』
『新たな産物も生産の目処が立ってきたし、交易路の整備も進んだぞよ。』
『これらが噛み合い、三好が畿内に軸足を置いているうちに動けば、まず負けることは無いと踏んでいる。』
『そうなれば四国が麿の手に入るという訳じゃの。』
『そして、畿内方面からの敵を迎え撃つために淡路まで取っておくことが必要だ。塩飽と淡路の海賊衆まで手中に収めれば、最早四国を脅かす勢力などないだろう。』
『次の戦はそれほど大事なのでおじゃるな。』
『そういうことだ。多少の時間がかかっても、苦しくても、一度始めたら途中で兵を退くことはできんから、覚悟はしておくのだぞ。』
『分かったぞよ。麿が馬で挑発せんでも良いなら大丈夫ぞよ。』
『三好もある程度の鉄砲は持っているだろう。そのような無謀なことはせんよ。』
『ならば、どこかの城に詰めるでおじゃるか。』
『恐らくそうなる。伊予と土佐双方から同時に攻めるなら、朝倉城辺りが一番良いかもな。』
『分かったぞよ。』
『まあ、当面は調略と間者からの情報収集だ。』
『頑張れよ。』
『少将は頑張らんのか?』
『麿は適材適所を心掛けておるぞよ。不得手なことを無理するのは、麿の信条ではないでおじゃるよ。』
『全く調子のいいヤツだ・・・』
でも、コイツがこんなだから、順調なのかもなあ・・・




