もう一つの最強
我が家の最強はお松に決定したが、一条軍の最強がここに完成した。
とはいっても、まだ試作品ではあるが、前回の試射を踏まえていくつかの改良を施し、職人たちも経験を積んだことにより、かなり腕を上げたように思える。
「これが改良フランキ砲でおじゃるな。」
「はい。御所様のお言いつけに従い、いくつかの改良を施しております。」
フランキ砲は、玉と推進火薬を装填する所が開口部となっており、装填作業自体は容易だが、爆発エネルギーが盛大に逃げるので、思いの外射程が短い。
初めて見たときは、正直「これは使い物にならん」と心の中で断言してしまった。
ということで、小さな着火口以外は、砲を完全に密閉構造とし、更に推進薬を装填する部分の内径を少し大きくして、より火薬を装填できるようにした。
もちろん、後ろの蓋の留め具はかなり太いものにした。
そして、従来型より大口径、長砲身とし、青銅ではなく鉄で鋳造した。
改良点は以上であるが、これに運搬用の台車、据え置き用の台座を開発し、少人数で素早く方位・角度を調整できるようにするつもりだ。
これは最終的な砲のサイズが決まってからの仕事だ。
「これで南蛮の物を超えることは確実じゃが、威力が上がった分、危険性は増す。取り扱いは慎重に。そして、一度発射する毎に細かく点検し、少しでもヒビ、歪みが出たら、迷わず終了するのじゃ。言ってしまえば、それがこの砲の寿命じゃ。」
「分かりました。気を付けます。」
「砲身の強度が足りなければ、厚くすれば良いし、蓋の取付部分も、鋳型を工夫すれば更に丈夫にすることもできようぞ。」
「分かりました。」
「それで、新たな玉もできておるの?」
「はい。新型砲の径に合わせたものをご用意しております。」
「試射の際は、砂を詰めれば良い。」
「火薬では無く?」
「破裂したら二度と使えぬから、勿体なかろう?差し当たっては玉より砲の完成を優先させるのじゃ。」
「御意。」
こうして、大砲開発チーム一行は、拠点のある古津賀から入野の浜に移動して試射を行う。
「御所様、もう少しお離れください。」
「そんなに凄いでおじゃるか?」
「何が起こるかわかりません。御所様の御身第一でございますゆえ、何卒、お聞き届けを。」
「分かったぞよ。麿も先の戦でフランキ砲の威力を見ていないでおじゃるからのう。」
程なく準備が完了し、ついに発射される。
「ひぃやぁ~っ!これは・・・これは凄い音ぞよっ!」
あたりをつんざく轟音が空気を振るわせる。
「これが、これが大筒か?」
はるか向こうで大きな砂煙が上がる。
「・・・あんなに遠くまで飛ぶのか?」
「それがしも、さすがにあれほど飛ぶとは思いませんでした。以前に試射した最初のものとは比べものになりませぬ。」
開発責任者の羽生も驚きの性能向上である。
「まだ耳がキーンと鳴っておるぞよ。」
「この音も、敵を怯ませる大きな武器でございます。」
「味方も恐れおののくぞよ。」
「お味方にとっては心強い音でございましょう。」
「それで、何間くらい飛んだのかのう?」
「十町歩くらいは飛んだかも知れませんな。」
「今までのフランキ砲と比べてどうなのじゃ。」
「倍はゆうに超えたかと。」
「それは凄いの。では、これを引き続き試射し、次はどれだけ寿命があるかを調べるのじゃ。」
「では、そのように。」
こうして、改良型大砲の試射を終え、御所に帰る。
『しかし、悪霊はとんでもない物を考えつくのう。まさに悪霊じゃ。』
『一条にとっては良い神ではないか。』
『まあ、そうよのう。一応、そちの言うとおりやっておったら、いつの間にか強くなっていた訳でおじゃるからのう。』
『あれほどの物は、どこの大名家にも無い。城攻めもあっという間だぞ。』
『そうよのう。城にいても安堵できぬ。』
『それに、一条が大きくなると、より強い相手と戦うことになる。』
『毛利とか三好かの?』
『そうなれば、より広い戦場に多くの兵が集まる。そういった場所で大筒は威力を発揮する。』
『のうのう、本当に日の本が手に入るのでは無いか?』
『やめておけ。面倒なこと、この上ないぞ。』
『なら止めるぞよ。』
そうやってすぐ諦める・・・




