秀との面会
浦新四郎をもてなした翌日、岡豊から戻った秀と面会する。
「義父の葬儀や弥三郎殿の家督相続、それに加えて長旅で疲れておるじゃろう。無理せず後日でも良かったのじゃがのう。」
「いいえ。妾は一条家の妻ですので、そういう訳にはまいりません。それに、父の葬儀があったとは言え、妾も立派な大人でございます。」
「麿も齢七つで父を亡くし、養父を亡くしたのも今のそなたと同じ歳でおじゃった。どんなに立派に振る舞っても心労は残るものよ。」
「お言葉、痛み入ります。しかし、本当に大丈夫でございます。」
「そなたは本当に強いの。それで、義父上はどのようなご様子であったかの。」
「はい。父は最後まで気丈に振る舞い、武人としての生を全うしたように思いました。御所様におかれましても、くれぐれもよろしくと申しておりました。」
「そうか。有り難いことよ。それで、新しい当主殿の様子はどうであったかの?」
「はい。兄は元々何があっても動じない性分ですので、終始落ち着いて事に当たっておりました。これからも変わりなく、主家大事に働いてくれるものと思っております。」
「それは安心したぞよ。巷では心ない噂をばらまく不届き者もおるが、麿はあの者を高く買うておる。義父同様、番頭に就かせて活躍させたいと考えておるのじゃ。」
「兄上なら、きっとご期待に添う働きをすることでしょう。」
「分かった。秀よ、此度は重要な役目、大儀であった。数日ゆるりと過ごし、英気を養うがよいぞ。」
「有り難きお言葉にございます。では、これにて。」
『疲れた、まこと疲れるのう・・・』
『おい、毛利の使者と同じようにやれよ。』
『無茶言うでない。もうちょっとこう、いろいろあると話も拡がるが、無駄が無いというか何というか・・・』
『まあ、とても夫婦の会話には見えなかったな。』
『じゃが、麿はとても頑張っておるよのう。』
『ああ、それは間違いなく、最善を尽くしていると思うぞ。』
大変疲れた兼定は、お松に癒やされに行く・・・
「まあまあ御所様、毎日お疲れのご様子ですね。」
「そうなのじゃ。昨日の酒も残ってはおるが、秀の報告も聞いたでの。」
「そうですか。それは大変でございました。そうそう、そのお秀ですが、先ほどまでこちらに挨拶に来ていたのですが、とてもご機嫌な様子でしたよ。」
「お松は本当に凄いのう。麿は秀のそんな顔、見たこと無いぞよ。」
「私はよく見かけますよ。それに、子供たちもよく懐いております。」
「麿には全く懐いてくれぬが・・・」
「きっとそのようなことはございませんよ。秀も場を弁えておりますし、御所様に対してもしっかり妻をやっていると思います。」
妻、やってないような気も・・・
「そう、そういうところがお松の凄い所じゃ。秀も内心は辛いはずなのじゃ。それでも秀の機嫌の良い顔を引き出せるそなたの力には感服するぞよ。」
「私は、御所様あっての私でございますよ。お気遣いは無用です。」
「まあ、子も宿しておるゆえ、今は無理をせぬようにの。それで万千代とお雅はどこじゃな?声が聞こえぬが。」
「お秀の方が寝かしつけている所ではないでしょうか。」
「全く、麿のいないところで次々と不可思議な現象が起きるのう・・・」
兼定は興味半分、恐怖半分で子供たちの元を訪れる。
「二人はもう寝たかの?」
「これは・・・御所様。」
「最近は万千代も昼寝を嫌がるようになったからの。上手く寝かしつけるにはコツがいるのじゃ。」
「そうですね。」
「しかし、上手いものよのう。そなたも麿の子を可愛がってくれてありがとうじゃ。」
「な、何を・・・」
「それはそうでおじゃろう。普通は正室と側室の仲は悪いと相場は決まっておるし、子もまた同じ。こうして面倒を見てくれていることに感謝して当然でおじゃろう?」
「なな、何をおっしゃるかと思えば。そ、そんなつもりではございませぬ。か、勘違いもほどほどにして下さらないと困ります。」
分かった、これはアレだ!そうに違いない。
「これこれ、せっかく寝た子が起きてしまうぞよ。まあ、起きた時に見える顔がそなたなら、泣きはせんであろうがの。」
「こここ、これにて、し、失礼致します!」
これは間違いようがない。日本最古のツンデレがここにいた!
『また怒らせてしもうた。どうやってもお松のようにはいかんのう。』
『そうでも無いぞ。かなり解決に近付いている。』
『そうかのう。』
『少将は先ほどのお秀の目を見なかったのか?あれは決して嫌いな者に対して向ける目では無い。あれはツンデレというものだ。』
『何じゃ?それは。』
『神の世界ではそう呼ぶ現象だ。もう少しでデレが来る。そうすれば解決だ。』
『この分野では、お主はサッパリじゃからのう・・・』
もう少し信用しろよ!




