兼定の策である。他人から見れば・・・
次の日、兼定は土居宗珊、羽生監物(道成)、源刑部(康政)の三名を呼んだ。
「御所様、本日もご機嫌麗しゅう、我ら家臣一同も大変喜ばしく思っております。」
「うむ。苦しゅうないぞ。」
『おい悪霊、これからどうすれば良いのじゃ?』
『我がこれから言うことを、彼らにそのまま伝えればいい。』
『わ、分かったぞよ・・・』
『まず、これから授ける策はいくつかある。まずは領地付近の状況を宗珊に聞くのだ。』
『分かった。』
「本日そなたらを呼んだのは他でもない。今後の事を伝えたいと思ってのう。そこで宗珊よ、我が領地周辺の状況を教えてたもれ。」
「はっ、御所様がこちらに赴く直前、本山家により蓮池、森山の二城が奪われております。恐らく、こちらの代替わりを狙ったものでしょう。また、伊予方面については、河後森城主、渡辺氏の元に東小路様のお子が入嗣する運びとなっており、当面の心配はございません。それとご承知のとおり、年明けに大洲の宇都宮遠江守の姫と婚儀の運びとなっております。」
「うむ。承知した。」
『では、これから我の言うことをそのまま伝えると良い。まず、蓮池と森山の二つを取り戻す。』
「まず、蓮池と森山(現在の土佐市と高知市春野)の城を取り返すぞよ。」
「御所様、それは大変喜ばしいことにございますが、時期尚早ではございませんか?」
『長宗我部と組むのじゃ。』
「確かに、宮内少輔からすれば父の仇ではありますが、動きますでしょうか?」
「動かざるを得ぬ。父の仇を他人に討たれては、武門の名折れじゃ。」
「なるほど、では、すぐに密使を送りますか。」
「いや、我らが兵を起こした後で良いぞよ。何故なら、中村から蓮池までは遠い。宮内少輔には父の仇を討たせてやるが、領地は一条が頂くぞよ。」
「と、いうことは・・・」
「少なくとも吉良の城、あわよくば朝倉(現在の高知市朝倉)まで獲る。周辺の城主にはこちらに付くよう、勧告すれば従うはずじゃ。」
「承知しました。至急、戦支度をさせます。」
「次に、下田と宿毛の二つの港を整備するぞよ。」
「唐や朝鮮との貿易ですな。」
「あと、南蛮や琉球ともじゃ。ところで宗珊、当家に水軍はあるか?」
「いいえ、水軍と呼べるようなものはございません。」
「では、御荘や津島の海賊衆は宿毛まで出張ってきておるか?」
「いいえ、奴らはあくまで伊予境までしか来ません。」
「ならば良い。」
「彼らをいかがなされるおつもりでしょうか。」
「彼らを取り込む。宿毛で駄別料(通行料)を取らぬと評判を拡げれば、入港する船も増えよう。・・・そして船が増えれば海賊衆も潤うであろう。・・・そうしながら奴らをこちら側に引き込む。・・・戦の際には西園寺では無く、一条に味方せよと・・・」
「あの、御所様?」
『おい悪霊!長い、長いぞっ!30文字以内でないと無理じゃぞ。』
『情けない事を言うな。だから知力7などと言われるのだ。』
『何を!それはそちしか言っておらぬではないかっ!』
「あの、御所様、いかがなされましたか?」
「いや、監物が出来損ないの山伏を呼んでくるものじゃから、憑きものが落ちぬでのう・・・」
「誠に申し訳ございませぬ。」
「まあ良い。それで、当面は西園寺と事を構えるつもりはない。土佐を平定することに注力する故・・・・宇都宮には、こちらの、指示があるまで戦、をせぬよう、厳に申しつけよ。」
「承知いたしました。」
『30文字以内と言うたであろう?お主の知力も7しかないのか?』
『お前はどこまで無能なんだ!』
『そんなことは初めっから分かりきったことであろう。』
『あっさり認めるなよ。まあいい。今は揉めている場合じゃ無い。続き行くぞ。』
「ほかには新田開発を奨励せよ。新たに開墾した田畑については3年間、租税の取り立てを免除すると喧伝するのじゃ。」
「それは・・・御所様、さすがでございます。民も喜ぶでしょう。」
「あと、関所の通行料も廃止する。」
「それでは領地の実入りが減ってしまいますが・・・」
「これからは商人の時代じゃ。彼らに力を付けさせることが当家の興隆に繋がる。」
「確かに理屈は分かりますが、それにしても御所様、都でかなり勉学に励まれたのですな。この宗珊、感服いたしました。」
「そ、そうか?ほほほ、だが宗珊よ、この麿じゃぞ?さもあらん。」
「はい。御所様の策、悉く名案と存じます。このままいけば、お父上の代に勝る勢いを誇ることが出来ると存じます。」
『神懸かっておるであろう、と言うんだ。』
「か、神懸かっておろう?」
「た・・・確かに・・・」
『何でそんなこっぱずかしい事を言わねばならんのじゃ。悪霊のクセに。』
『そうではない。相手にそう思い込ませることが、少将自身の今後に良い影響を与える。』
『そ、そうなのか?ならば、良いかのう・・・』
そんなこんなで、初めての家老への所信表明は終了した。