次の戦に備えて軍を強化する
その後、毛利から再度の使者が来て、和睦の条件を提示された。
だからといって油断も隙も無い相手だが、同意しないよりはよっぽどマシである。
その結果、一条家が大三島と伯方島を領有し、多々良海峡を挟んで因島村上氏の領域と取り決められた。
岩城島や弓削島など、向こうの領分に入った伊予の島はいくつかあるが、実際に進軍していない所まで領有を主張しても仕方無い。
それらがこちらより因島に近ければ尚更だ。
現代で言えば、今治市が当家に、越智郡上島町が毛利に属したことになる。
しかし、現代でも交通の要衝である来島海峡を手にした意味は大きく、実質的に毛利方に瀬戸の島々を領有する意味はほとんど無くなったと言えよう。
そんな中、早くも大筒の試作が出来上がった。
改良はこれからであり、試射の後は鋳つぶして新たな大砲に生まれ変わる予定だが、取りあえず製作できる設備があることを証明することに意義がある。
「これが筒の内側になる型なのかの?」
「はい。何度も確認し、途中で玉が引っかかることは無いと考えております。」
「そうか。いくら試し撃ちの玉に火薬を仕込まぬとはいえ、危ないものじゃからの。くれぐれも気を付けるのじゃ。」
「有り難いご配慮にございます。」
いくらゲームとは言え、暴発で貴重な技術者を失いたくはないのだ・・・
「試し撃ちは入野の浜で行うのじゃな。」
「はい。この付近で一番開けた場所ですので。」
「とにかく、今回は見事玉が出来れば合格じゃ。すぐ次の作業に移るゆえ、早く作り、早く試すのじゃぞ。」
「承知。」
「それで、鉄砲はいかほどの数が揃ったのじゃ?」
「もうすぐ九百になります。」
「うむ。修理用の部材も確保しておじゃろうな。」
「はい。定期的な整備点検が行えるよう、職人には申しつけております。」
「それで、改良の方は進んでおるか?」
「はい。濡れても中に水が染みこまないように精度を上げてはおりますが、まだ雨でも撃てるまでには至っておりません。」
「玉込めの改良はどうじゃ?」
「火薬を糊で成形することを試しております。」
「それと、大筒の玉もそうじゃが、鉄砲の弾もこういう形の物を鉄で作ってみよ。」
「これはまた、珍妙な・・・」
所謂紡錘形の玉であり、射程、貫通力、指向性の向上を図る目的である。
「これと従来の物を実際に撃って比較してみよ。」
「しかし、これでは足軽が戦場で即席に作ることができませんが。」
「何も全て入れ替える訳では無い。鉄砲がどちらの玉でも撃てれば良いのじゃ。」
「畏まりました。」
続いて、渡川の河原で訓練を行う足軽達を視察する。
「また兵を補充したようじゃの。」
「はい。幡多郡で二千、宇和で二千、松山で二千であればいつでも動かせますぞ。」
「まあ、兵糧さえ足りればな。」
「はい。その意味でも毛利との時間を稼げたのは幸いでございました。」
「そうじゃな。本当はあのまま毛利が攻めてくる。これが最悪の想定であったが、今のところその動きはない。後で絶好の機会を逃したと地団駄を踏むであろうな。」
「敢えて毛利が動けない隙を突くなど、まさに神懸かっておりまする。」
「河野もそうであったし、西園寺も長宗我部が動けない隙を突いて全軍で攻めた。機を外さなければ相手が強大でもやりようはあるぞよ。」
「まさにその通りにございますな。」
「それで、例の一領具足とやらはどうなっておる。」
「はい。今は足軽の具足を揃えるので精一杯。まだそこまで手が回っておりませぬ。」
「できるだけ急ぐのじゃ。機は一瞬。敵は待ってはくれぬぞ。」
「はい。肝に銘じまする。」
『のうのう、今日も格好良かったであろう?』
『決め台詞を言うとき、ドヤ顔をするのを止めろ。どっかの落語家みたいだ。』
『らくごか?聞いたことも無い言葉じゃのう。』
『そうだった。少将が知らなくても仕方が無い。遠い先の娯楽だからな。』
『それより悪霊よ。あの町娘、なかなかきれいじゃのう。』
『どれだ?』
『ほら、あそこの、ほら、今籠を地面に下ろした。』
『ああ・・・って、少将よ、あれが美人なのか?』
『何を言う。あれならかなりなもんじゃぞ。』
言われてみれば、この時代と現代では美的感覚も異なろう。
しかし、そこは敢えて現代基準にするべきじゃないのか?
プレイするのは21世紀の人なのに。
『ならば、お松の方は美人なのか?』
『麿の好みでは無いが、ああいう個性的な面立ちの女性を好ましく思う者はいるのではないかのう。』
そうだったのか・・・
『お秀は目鼻立ちははっきりしておるが、あれは痩せすぎじゃ。もっとこう、ふっくらせぬといかんのう。』
『そうか。人の好みは難しいな・・・』
今日一番のビックリだった。




