朝食の風景
さて、婚儀も終わり、宮内少輔親子も岡豊に帰って数日。
ようやく御所も日常を取り戻した。
そんな朝の一コマ。
「御所様、本日もおはようございます。ご機嫌麗しそうで、何よりでございます。」
「うむ。お松も大分顔色が良くなって来たと思うぞよ。志東丸も元気そうじゃしのう。」
「はい。とてもせわしないややこにございます。きっとやんちゃなお子に育つことでしょう。」
「最近、雅がすっかり姉になっておるからのう。僅か二歳でも分かるのじゃのう。」
「はい。とても優しく、将来が楽しみにございます。」
「おちちうえ、万千代も大変お利口さんでございまするぞよ。」
「勿論父も分かっておるぞよ。好き嫌いを言わず、何でも良く食べるのじゃぞ。」
「は~い。麿は菜っ葉が好きでおじゃる。」
「好みは独特なようじゃの・・・」
「万千代も実家の兄弟たちに比べると、物静かであまり手がかからないのです。」
「そうなのか。それは良いことじゃ。これから多くの勉強をさせる必要がおじゃるが、落ち着きが無いと、なかなか身に付かぬからのう。」
「そう言っていただけますと、とても安堵いたします。」
「いや、お松はようやってくれておるぞよ。最近、特に思い知ったからのう。」
食事が運ばれてきて、子供たちと朝食を取る。いつもの朝の風景。
「ところで、お秀の方とその後は・・・」
「まあ、見ての通りじゃ。たまたま廊下ですれ違うだけじゃ。」
「それはいくら何でも困りました。毎日、あちらで朝餉をいただいておりますし。」
「そうじゃのう。まるで側室などいないかのようじゃな。」
「お秀の方にべったりでも妬けますが、全く変わりが無いもの心配でございます。先方のご機嫌を損ねる訳にもいきませんし。」
「そうよのう。まだ夫婦になるには子供なのかも知れんのう。」
「それでは、私と子供たちにお任せ下さい。時間は掛かると思いますが、何とか彼女の気持ちをほぐしてみましょう。」
「そうよのう。面倒事を押しつけて済まぬが、よろしく頼むぞよ。」
さて、飯に汁を掛けて食べる。おちょぼ口で少しづつだ。
『しかし、お松はようできた妻よのう。』
『これが正妻の余裕というものだ。今はこれでいい。』
『まあ、子も三人いて、立場は不動じゃからのう。それに一緒に居て安心するぞよ。』
『そうだな。温厚な女性だ。』
「おちちうえ~、のこさず食べました。」
「うむ。偉いぞよ。たんと食べて大きくならねばの。」
「はい、でおじゃる。」
『なかなかいい子に育ってきておるではないか。』
『そるあ、麿の子ならさもあらん。』
『いいや、お松の方のお陰だな。』
『まあ、そういうことにしてやっても良いぞよ・・・』
『良い家族こそが、お家繁栄の礎だからな。夫婦もそうだが、兄弟が仲良くできるように努めるのだ。特に万千代は1年半後には京に言ってしまうからな。』
『そうよの。それまでに志東丸と仲良くならねばいかんのう。』
『そうだな。では、朝餉の時間は終わりかな。』
「では、麿は仕事に行くゆえ、家のことは頼むぞよ。」
「はい。お任せ下さい。」
「ちちうえ、いってらしゃい。」
「おお、雅も挨拶できるようになったか。さすがは姉君よのう。」
「うん。だっこ。」
「まあ、まだまだでおじゃるな・・・」
「雅、お父上はこれからお出掛けですから、母上と遊びましょう。」
「だっこ・・・」
「なかなか愛らしいのう。将来が楽しみじゃの。」
兼定のクセに、私が経験したことの無い、いい家庭を築いている・・・
『悪霊には家族はおるのか?』
『神にも家族はいるぞ。いろんな者と血も繋がっているし・・・』
『そう言えば、カグツチ様の血しぶきから生まれたのよのう。孤独なのじゃのう。』
『だから、他の神とはあまり関わりたくないのだ。』
『そして、お子に当たる天児屋命様が藤原家の氏神様なのじゃよのう。なのに悪霊・・・』
『だから悪霊では無いとあれほど申しておるだろう。』
『麿は信じた訳ではないぞよ。下品な者は皆、悪霊よ。』
『まあ、それも今はそれで良い。』
こうして兼定は今日も領内の視察に出かける。
何だか、リア充っぽくて腹も立つが、彼が前評判と異なり、意外にイイヤツなのは間違いないし、ちょっと応援したくもなる。
それにしても、最近連絡も取ってないけど、実家の家族、みんな元気にしてるかなあ・・・




