兼定を諭す
ふて寝していた兼定であるが、夕餉の時間になると起き出す。
『腹が減れば起きるか?』
「お主、いつまで麿に取り憑くつもりじゃ?それで何が目的なのじゃ。」
『決まっている。一条家の没落を阻止するためだ。』
「しかし、お主には関係の無い話であろう?」
『我も本心ではどうでも良い。だが、お前の先祖はそうではないようでな。』
「父か、祖父か?」
『皆だ。』
「じゃが、こんな摩訶不思議な話、すぐに信じろと言うのが無理でおじゃる。麿の気が触れたと思われるのが関の山じゃ。」
『気が触れたと思われるか、神懸かっていると思われるかはお前の行動一つだ。』
「しかし、こうして独り言を続けておれば、誰でも気が触れたと思うであろう。」
『別に心の中で会話すれば良いのではないか?どうせ他人に我の声は聞こえぬ。』
「そ、そうなのか?ではやってみよう。」
『おい悪霊、聞こえるか?』
『ああ、しかし相変わらず随分な呼び方だな。』
『お主も麿を本名で呼ぶではないか。』
『では、何と呼べば良い。』
『従三位、左近衛少将、一条朝臣』
『長いっ!足の指で良いか?』
『何でそうなる・・・では、少将で良いわ。』
『分かった。では我は権現だ。』
『そなた、権現様などではあるまい?』
『何故そう思う。』
『権現様はもっとこう、上品で神々しく、威厳のあるものじゃ。』
『お前が言うな。そういうそっちこそ神など見たことあるまい。』
『それはそうでおじゃるが、何か違うのじゃ。』
『では我を何と呼ぶ。』
『お主で良いではないか。』
『分かった。それで我慢しよう。』
『随分素直じゃな。』
『正直、呼び方などどうでも良い。肝心な事は、生き抜くことだ。』
『そうか。麿はお主を信じた訳では無い。しかし、麿の平穏な暮らしのためには祓えぬ者と対立しても詮無きことじゃからのう。』
『ほう、意外に物分かりがいいじゃないか。知力7のクセに。』
『その、ちりょくななとは何でおじゃるか?』
『まあ、そのうち教えよう。』
さて、夕食後・・・
『それで、何故このままではダメなのじゃ?』
『少将よ、かつてこの幡多荘からの収入が土豪によって簒奪されていたことは知っているだろう。』
『それは知っておるぞよ。』
『つまり、目を離すと家臣ですらこの有様だ。西園寺や本山が一条家のことを気にすると思うか?』
『しかし、土佐国司、五摂家の一つである我が家の威光は健在でおじゃるぞ。』
『そんなものがあるのなら、他国の国司がほとんど有名無実なのは何故だ。他の国司で存在感があるのは伊勢の北畠くらいのものだろう。』
『しかし、当家のほかにあるのは事実じゃ。』
『では、他の大多数が消えたのは何故か?力が無かったからだろう?』
『しかし、土佐の中で当家に歯向かう者などおらんであろう?』
『父の代に津野が歯向かったではないか。本山だって相当怪しい。それらを跳ね返すだけの力があるうちは良いが、少将が手をこまねいていると、いずれは言うことを聞かなくなるぞ。』
実際はもう、馬鹿にされているのだろうが・・・
『ならば、どうすれば良いのじゃ。』
『戦うしかない。少なくとも土佐を手にするくらいでないと、命脈を保てん。』
『当家の力なら、それはできそうじゃの。』
『簡単に言うな。少将の持つ力では、相当苦労するぞ。』
『じゃあ、無理でおじゃる・・・』
『何もしなければ淘汰される。京に逃げても良いが、この幡多荘は失われる。ここからの収入のない一条家は今までどおりの暮らしはできんぞ。』
『他の貧乏貴族のようになるのか?』
『そりゃそうだろう。そうなったら、関白様にも相当恨まれるだろう。』
『麿の居場所が無くなるのじゃな。』
『この土佐の地しかない。若しくは、そこいらの勢力が手を出せないくらい強くなった後に、子に家督を譲って京で隠棲するかだ。』
『では、やるしかないのじゃな・・・』
『策は授ける。』
『そうか、そなたはそれほど悪くない悪霊なのだな。』
『何だそれは。さすがは知力7だ。』
『気になっているが、ちりょくななとはどういう意味じゃ?』
『知恵がどれだけ回るか、ということだ。ちなみに宮内少輔(長宗我部国親)は87だ。』
『麿が何故7しかないのじゃ?』
『その程度だからではないか?』
『な、何じゃとっ!やはりお主は悪霊じゃっ!』
兼定は刀を抜いて暴れ出す。
ああ、やっぱり7で間違いない・・・