急遽、水軍整備に動く
当初はそんな予定など、さらさら無かったが、村上水軍を叩けば毛利もこちらに出兵できないことに気付いた以上、やらない訳にいかない。
しかも、今治に近い来島では、目の前で村上の船が我が物顔に振る舞っている。
さすがに対岸の今治に悪さをするため出張って来ることはないが、当家直轄地のため、威光を示すためにも強く出ておきたい。
「と言うわけで、来島城を攻め落とそうと思うての。」
「しかし、来島の居館は以前の戦で、我らの手中に落ちました。そこまで無理をしなくても、勧告すれば降るのではないでしょうか?」
「いや、彼奴らの力の源は海にある。通行料を得る手段を断ち切らない限り、我らに降ることは無いでおじゃる。」
「フランキ砲なら届くとお考えですか。」
「城は目の前じゃからの。」
「しかし、降伏させた方が簡単ではないでしょうか?」
「彼奴らの降伏は常に一時のことよ。武家の忠誠などとはおよそほど遠い。いっそ根絶やしにした方が、憂いを絶ちきれるでおじゃる。」
「それで力攻めなのでございまするな。」
「そうじゃ。それと、本当の敵は能島じゃ。あそこを落とせば毛利が四国に手出しできなくなる。泳いで攻めてくる訳にはいかぬからのう。」
「しかし、河野水軍や法華津殿たちでは、現地の潮の流れに不案内で、不利かと思われますが。」
「ならば、潮の流れの緩い所で戦うか、囮として使うか、背後の大島に兵を渡すのに使うか、いろいろやり方はあろう。」
「なるほど、兵力は我が方が圧倒しておりますからな。」
「さすがに三原や日生、因島の海賊にまで手を出すことは出来ぬが、能島まで占領して守りを固めれば、海賊を干上がらせ、毛利の進出を阻むことはできるぞよ。」
「さすがは御所様にございます。」
「ただし、慌てることは無い。フランキ砲の入手が先であるし、土佐航路を定着させることも考えねばならんのでの。」
「御意。それにしても御所様の深慮遠謀、この宗珊、いつも感心しきりにございます。」
「宗珊よ。褒め言葉はいくらかけてもらってもいいのじゃぞ。」
「はい。さすがにございます。」
「それで、当家の水軍じゃが、どうすれば強くなると思うか?」
「そうですなあ。船は同じようなものと考えますが、数が足りませんなあ。それに、慣れない海域での戦闘では、不利にならざるを得ないことでしょう。」
「その辺りは、水軍衆に直接聞いた方が良いのう。」
結局、聞き取りした結果、当家で資金を援助して漕ぎ手や射手を増やす事になった。
フランキ砲を撃てるような大型船も考えたが、他に使い道のないものに、多額の出費は憚られたので、取りやめた。
『しかし、これで水軍衆は強化されるの。』
『射手は陸上の戦でも使えるし、来島や能島の城に大筒を据え置いても良い。』
『そうよの。そうすればどんな相手も瀬戸を渡って四国に攻め込んで来る者はいなくなるのう。』
『なかなか分かってきたじゃないか。』
史実における四国征伐は、淡路や岡山方面からだけではなく、この方面からも毛利軍が派遣されてきた。
そういったルートの制海権を握ることは、生き残りに必須なのだ。
『それで、いつ頃攻めるつもりなのじゃ?』
『遅くとも来年末までには勝負を決めたいな。』
『急ぐのう。何故なのじゃ?』
『もうすぐ尼子も降るであろう。もちろん、毛利は山陰沿いに因幡の鳥取まで兵を進めるだろうが、その前に動いておかねば、本当に毛利と全面対決になる。』
『そうか。それは急ぐの。』
『たとえ農繁期であってもやる必要がある。』
『分かったぞよ。麿が出ないならいつでも良いぞよ。』
『出んのか?』
『馬はともかく船に乗って戦うつもりはないぞよ。』
『冗談だ。少将は出ずとも良い。また為松か安並に総大将を任せればいい。』
『それなら大船に乗ったつもりでいて良いの。』
『船に乗るのか?』
『こっちの船にはいくら乗っても良いぞよ。』
兼定の成長速度は、遅い・・・




