南蛮商人、来る
整備拡張した宿毛港に南蛮の船が来航してきた。
これは大友宗麟に紹介を依頼していたポルトガル船イードラ号が宿毛に入港し、商人ルイス・デ・アルメイダ、イエズス会宣教師ガスパル・ヴィレラが中村を訪れた。
宣教師も商人も数が少ないので、彼らが動くほか無かったのだろうが、何か、思ったより大物が来てしまった。
到着の翌日、御所で会見が開かれた。
「大友宗麟様のご紹介により参りました、宣教師のガスパル・ヴィレラと、こちらは南蛮商人のルイス・デ・アルメイダでございます。」
「遠路よう来てくださった。この地を治める一条左近におじゃる。」
「聞けば左近様は京の中枢とも関係が深いとか。」
「そうであるの。麿の義父は関白でおじゃったからのう。昨年、帝にもお会いいたした。」
「それはそれは。こちらとしても良き縁ができ、大変嬉しく思っているところでございます。」
「ところで、此度わざわざご足労いただいたのは他でもない。この地でそなたらと交易しようと思うての。」
「それはもちろん、喜ばしいところでございます。既に鹿児島や平戸、府内、山口などでは拠点を持っておりますが、こちらでも交易できるのであれば有り難いと存じます。」
「そうか。それは重畳。では、当方では宿毛と下田の二港での交易とするぞよ。」
これは、直轄地の港に限定することで、利益を独占するためと、村上水軍の支配地域を避けて交易を行う狙いである。
「分かりました。その二つの港にて商売を行うことといたしましょう。それで、此度はイエズス会の宣教師、ガスパル・ヴィレラを帯同させた件につきましてご相談が。」
「宗麟殿から聞いておる。布教を認めることが交易の条件なのであろう。好きにするが良い。」
「ご理解が早く、大変助かります。それで、ご希望の品などございましたら、何なりとお申し付け下さい。」
「至急、フランキ砲が欲しいぞよ。」
「フランキ砲ですか。」
「知っておろう。そちの国の最新の大筒じゃ。」
「ええ、もちろん。しかし、この国に持ち込んだことはございません。マラッカまで戻れば入手可能とは思いますが。」
「ならば至急欲しいぞよ。安くしてくれるなら、そちらにも益があると思うぞよ。」
「それは一体、どのような良い事があるのですかな。」
「能島と来島を平らげて通行料を無くして見せようぞ。」
「なるほど、それは確かに。しかし、そのようなことができますでしょううか?」
「さて、どうかのう・・・」
「分かり申した。可能な限りお安くすることをお約束いたしましょう。」
「それと、中村に教会を建てることをお許し願いたい。」
「中村は手狭ゆえ、宿毛なら良いぞ。」
「分かりました。我々としては港でも支障はございません。」
「うむ。麿の所にも様々な物産があるでの。これから末永く良い間柄でいたいものよの。」
「全くそのとおりにございます。」
こうして会見は終わり、数ヶ月後にはフランキ砲が入手できる運びとなった。
値段は応相談である。
『悪霊は商売上手よのう。』
『まあ、それが神の仕事だからな。』
いえ、不動産業です・・・
『しかし、村上水軍と事を起こすとなると、大変じゃのう。』
『こちらには河野水軍のほか、法華津、津島、御荘の各水軍が使える。それほど悪い条件ではない。』
『まあ、来島は陸から撃っても届きそうなくらい、近いもののう。』
『それに、水軍を叩いておけば、毛利は四国に出てくる術をほぼ失う。』
『まだ三原や因島におろう?』
『それでも大軍は運べまい。それに、皆が来島海峡を通ることになれば、因島もいずれ衰える。』
『そうじゃの。そうすれば安心よの。ところで、耶蘇教の布教は良いが、麿は改宗しなくてもよいものかのう。』
『朝臣の最たる一条家の重鎮が神仏を崇めていないのはいささか不味いだろう。』
『そうじゃ。言われてみれば、本家にまた激怒されるのう。』
『それに、家臣や領内の神社仏閣が混乱する。止めておけ。』
『そうじゃの。ぜうす様の教えというものを、一度知っておきたかったが、藪蛇よの。』
こうして、ドン・パウロの出現は無くなった。
『しかし、これで莫大な利が生まれるのう。またまた神懸かってきたのう・・・うん?そう言えば、お主タケミカヅチノオとかほざいておったが、そちとぜうす様、どっちが偉いのじゃ?』
『神に上下などないぞ。厳密には天照大神様とぜうす様は同じようなものだな。』
『何か、ざっくりし過ぎではないか?』
『神だぞ。そんな些事、気にするはずがあるまい。そんなのは矮小な人間がこちょこちょ拘っているに過ぎん。』
『まあ、そうかも知れぬな。しかし、人の世は、そういったことが重要なのじゃ。』
『何か、たまには良いこと言うようになったな。』
『どうじゃ、そろそろちりょくが上がったか。』
知力は上がらなくてもいいが、せめてお調子者は治って欲しい・・・




