家族の風景
兼定にも家族はいる。
お松の方と三歳を迎えた万千代、もうすぐ一歳になる雅だ。
この時代には珍しい核家族だが、そのせいもあってか、性質薄情と言われた兼定も、普通の父親をやっている。
「おちちうえ~、まろとあそぼ~。」
「万千代はいつも元気じゃのう。」
「おにごっこ鬼ごっこ!」
「おちちおにじゃぞーっ!ガオーッ!」
「キャー、おちちおにこわい~」
「さあ万千代、早く逃げぬと捕まえるぞ~。」
万千代は彼なりに必死に逃げ回る。こういうのは、いつの時代も変わらないのだなと思う。
「ほら、捕まえたぞよ。これからお父上のグルグル攻撃じゃ!」
兼定は万千代を抱きかかえたまま、グルグル高速回転する。
万千代を放してやると、目を回して座り込む。・・・と、兼定も倒れ込む。
「いや、疲れたのう。どうじゃ。楽しかったかの。」
「おちちうえ、くるくるするでおじゃる。」
「そうであろう?不思議なものよのう。さて、母様の元に行くぞよ。」
「御所様、ありがとうございます。」
「雅は昼寝かの?」
「はい。寝る子は育つともいいますので。それに今寝ておかないと、夕餉の頃にぐずって大変なのです。」
「そうよの。では万千代もそろそろ寝ないとダメでおじゃるよ。」
「やだ~。」
「仕方無いのう。では、おちちは寝るが、万千代は起きておるか?」
「いや~、おちちとねる~!」
「ほっほっほ、他愛の無いことよ・・・」
『さしずめ、知力1といったところだな。』
『たわけたことを申すな。麿の子なら最低90は超えておるわ。』
そして、添い寝をしてあげると疲れていたのか、万千代はすぐに寝付く。
それはいいのだが、ついでに兼定も寝付く。
「御所様もお眠りになってしまわれました。やはり、お疲れであったのですね。まだまだ寒い季節ですので、お風邪を召してはいけませんね。」
お松は兼定たちのために布を持ってきて掛けた。
「内でも外でもお忙しいのです。せめて今だけはごゆっくりお休み下さい。」
と言ったやり取りがあったとか無かったとか。何も聞こえない私は知る由も無い。
しばらくして兼定は目を覚ます。
「すっかり寝てしまったようじゃの。お松は休まなくて良かったのでおじゃるか?」
「私は大丈夫でございます。御所様の疲れが少しでも和らげば、嬉しく思います。」
「おお。大分良くなったぞよ。どのくらい寝ておったのかのう。」
「半刻くらいでしょうか。」
「意外に寝てしもうたの。これで夜は寝られないかも知れぬの。」
「御所様、それなら・・・」
「そうじゃの。しかし良いのか?そなたも雅が産まれてずっと疲れておるのではないか?」
「私ならご心配なさらず。」
「良ければあと何人か子が欲しいのじゃが。」
「そう言っていただけると女子冥利に尽きます。」
「そなたは当家のために本当に良くやっておる。あまり無理をするでないぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
「では、お互い少し休むとしようかの。」
「はい。それでは、皆が起きるまで。」
『結局、万千代たちが起きるまで寝ることになりそうじゃ。』
『こういう時間は大事だ。遠慮せずに寝ればいい。』
『しかし不思議なものよのう。』
『何がだ?』
『お松は決して麿好みの女子では無いのに、何だかこう、一緒にいると良い心地なのじゃ。』
『それは少将が大人になったということだ。何が大切か分かってきたのだろう。』
『大切か・・・そうよの。ただ若くて綺麗なだけではないのじゃの。』
『そうだ。互いを想い、家族を想い、家を想うことの方が大切なのだ。これはいくら金を積んでも手に入らん。確かに少将は金も名誉もあるから引く手数多だろうが、それでも本物に出会う機会は稀だ。』
まあ、私自身、そんな出会いは無かったが・・・
『そういうものなのじゃな。それは麿にも理解できるぞよ。』
『それが分かっておれば、側室を迎えても問題あるまい。』
『しかし、それではその側室が気の毒じゃのう。』
『だからよくよく考えて決めるのだ。』
『そうよの。分かったぞよ。』
どうやらまた一歩、兼定は成長したらしい・・・




