数年後に向けて布石を打つ
ゲーム開始から丸三年が過ぎ、初めて戦の無い秋を迎えた。
初年は本山、次は西園寺、昨年は河野と叩き、領地は飛躍的に大きくなった。
次は阿波と讃岐の二カ国を実質支配する三好との一戦となるが、今のところ三好に隙は無い。
しかし、もう数年待てばチャンスが訪れることは知っているので、焦らず国力増強に専念する。
12月初旬に中村に帰ってきた兼定は、早速現状の把握を行った。
港はこれまで整備を進めた箇所以外に、浦戸、手結、羽根、佐喜浜といった長宗我部や安芸領内についても整備を指示した。
これは村上水軍の弱体化も兼ねた施策である。
築堤を始めとした治水も中村だけでなく、伊予川(松山市)と鏡川(高知市)でも開始した。
特に鏡川については、将来の干拓も視野に入れている。
街道の拡幅整備も中村~朝倉間及び中村~松山間で始めた。
現在の国道56号線とほぼ同じルートである。
さらに、伊予統治の拠点として、勝山城の築城を計画した。現在の松山城である。
湯築も中村の御所よりはずっと強固だが、それでも毛利を迎え撃つには規模が小さい。
城の完成後は勝山を本拠に、湯築を兵の屯所及び訓練に使おうと考えている。
産業面においては、伊予の砥部で陶器作りを行うため、備前から職人を招聘することとした。
まだ国内では磁器を作る技術が無いと思われるが、砥部であれば磁器の製造も可能なはずだ。
さらに、新田や畑の開拓も伊予国内の蔵入地で奨励した。
そして、今年からは本格的な清酒の生産が始まる。
そのうち、醤油やみりん、酢などの醸造品にも手を広げるが、これが主要産業として発展すると交易の大きな柱となり、兼定の評価も更に上がる。
また、植林樹種について、杉は挿し木、檜は実生での苗木育成を奨励した。
木材増産とはげ山減少対策は、近頃の各地で深刻化している課題であるためだ。
軍事面においては、鉄砲生産を集約化した。
場所は中村郊外の古津賀という所である。
分業化も進める予定で、最終的には日産4丁を目指す。
また、雨に強い構造や火薬・鉛玉一体構造の研究開発も命じた。
完成した暁には一条式と名付けよう。
また、松山周辺で徴兵も開始した。
これで河野時代よりも精強な軍団が形成できるだろう。
それでも、兼定が率いたら弱いかも知れないが・・・
諜報面では、阿波・讃岐に間者を多数派遣した。
これは、各城主の評判や街道を始めとした地理を調べるためである。
きっと三好もこちらに対して同じ事をしているのだろうが、三好は今、こちらに攻めて来なければ、きっと勝ち目は無い。
長慶の後は権力争いでグダグダになる。
史実でもそうだが、何度やり直してもそうならざるを得ない構造的弱点を彼らは抱えているのだ。
こちらはその時を待つのみである。
『のうのう、やはり戦が無いのが一番じゃのう。』
『今の腑抜けた顔を弾正に見せてやりたいものだな。』
『神々しさに言葉を失うこと請け合いじゃの。』
『真っ先に四国に攻めてくると思うぞ。』
『今ならそう簡単に負けぬぞよ。』
『それと、今のうちに子作りをしておけ。万千代は何年か後には京に去るぞ。』
『お松が泣いておったぞよ。』
『まあ、気の毒であったな。しかし、武家の娘なら覚悟はあろう。』
『そうよの。男児が一人では心許ないからの。』
『それと、側室を迎えることも考えよ。』
『それは早いのではないかのう。』
『少将からまさかの発言だな。今すぐ迎えても良いが、どこから迎えるかを宗珊とよく相談するのだ。』
『そうか。そういうことか。』
『姫を迎えるのも政治だ。』
『今の麿であればより取り見取りじゃのう。』
『ただし、大友は止めておけよ。家臣からでも公家や織田、松平など遙か遠方でも良い。今後の一条の立場や戦略を考えて決めるのだ。』
『悪霊の案はあるのでおじゃるか?』
『長宗我部や三条、織田だな。』
『弾正に相当入れ込んでおるのう。』
『当然だ。それに武名を挙げた名門公家という虚構を最大限利用する必要がある。』
『その言い振りは、何だか非常に遺憾ではあるがのう。』
『まあ、宗珊がいいと言うなら手堅いだろう。それと、婚儀による波紋への対応も決めるのだぞ。』
『麿にそれは難しいぞよ。』
『またそうやって弱音を吐く。もう少し知力の経験値を稼ぐ努力をしろ。』
経験値が存在するかどうかは知らんが・・・
『けいけんちなど知らぬわ。まあ、考えないといけないことではあろうがのう。』
『その通り。少将の成長具合に期待しているぞ。』
『分かったぞよ。ちょっとだけ頑張って見るぞよ。それと、三好はいつ攻めるのじゃ。』
『少なくとも今はダメだ。三好が目に見えて衰えるか、毛利がこちらに攻めてくるつもりがないのを確認した後になる。』
『三好が衰えるなどということがあるのかのう。』
『必ず時は来る。心配無用だ。』
『分かった。そこだけは信じるぞよ。』
『何だ?そこだけって。』
『意味など無い。戯言じゃ。』




